講座詳細
植物の体系
外来植物の侵入がほとんどない環境が生み出した独自の植物世界
- ハワイ諸島に人が住みつく前から生育していた植物の大半はハワイ諸島にしかない固有の植物でしたが、外来の植物が持ちこまれた今日では、その多くが絶滅の危機に瀕しています。ただし、外来種のなかには暮らしに有用なものもあります。とくに「伝統植物(カヌー・プランツ)」と呼ばれる植物は、ハワイの伝統文化にとって不可欠なものでした。
- ハワイの固有植物は、その多くが山や渓谷の奥に分布域が狭まり、都会ではほとんど見ることができません。ただ、ホテルや大きな店舗のなかには、これらの植物を展示しているところもあります。
ハワイの植物とは?
ハワイ諸島はハイビスカスやプルメリアなど、色鮮やかな美しい花々に彩られています。その種類は2万を超えるとも言われますが、ほとんどが外来種で、ハワイに固有の植物はごく一部にすぎません。
一般に、植物は土着のもの(固有植物)と人が持ちこんだもの(外来植物)の2つに分けられますが、ハワイでは、島に定着したポリネシアの人々が、長距離航海の末に苦労して持ちこんだ植物(伝統植物 / カヌープランツ)を、ハワイ文化に深く根ざす植物として一分野を形成しています。ハワイの自然景観はこれら3つのカテゴリーの植物によって構成されます。
◆固有植物の世界
ハワイはどの大陸からも3000km以上離れた絶海の孤島(大洋島)です。そのため、動植物がハワイ諸島に根づく可能性は極めて低いと言えます。ハワイ在来の種子植物はおよそ1000種ありますが、このうちハワイに固有の植物は90%近く。ほとんど外界の影響を受けなかったことがわかります。しかし、定着が簡単だったわけではありません。たとえばカウアイ島は海上に姿を現してから約500万年が経ちますが、この間に約1000種の固有種が出現したということは、6000千年間に1種しか島に定着できなかった計算になります。
ところが今日では、初めに書いたように、およそ2万種の植物がハワイ諸島を覆います。色とりどりの植物がハワイのイメージ作りにひと役買っていることはだれしもが認めるところですが、固有植物にとっては極めて厳しい環境に晒されていることになります。ナショナル・ジオグラフィック誌によれば、「ハワイ州は全米の500分の1の面積しかないが、絶滅の危機に瀕している動植物は、全米の半数を占める」と報告しています。このため、国立、州立、公立、あるいは民間を問わず、多くの関係者が在来の自然を守るため、環境保護に力を注いでいます。
主にオヒアで構成されるカウアイ島コケエの森(近藤純夫)
◆伝統植物の世界
タヒチやマルケサス諸島から到来した先住のハワイ人たちは、生きて行くために最低限必要な道具や薬品、食糧などに用いる有用な植物を持ちこみました。カロ(タロイモ)やウル(パンノキ)、ニウ(ココヤシ)などを含む、おおよそ24種類と言われるそれらの植物は、「伝統植物」あるいは「カヌー・プランツ」と呼ばれ、一般的な外来植物とは別に考えられています。
食用、燈火、薬用などに用いられた伝統食物のククイ(近藤純夫)
◆外来植物
冒頭に書いたように、ハワイの観光地で見られるハイビスカスやプルメリア、ブーゲンビレアなどは、19世紀以降にハワイ諸島に持ちこまれた外来の植物です。このなかには今日のハワイの暮らしに役立つ有用な植物が数多くあり、観賞用、食用、薬用などに役立つものが少なくありません。しかし繁殖力が強く、在来の植物に大きな影響を与えるものも数多くあります。
外来植物であるマンゴーが生い茂るハワイ島ワイピオの森(近藤純夫)
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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