講座詳細
オヒア(オヒアレフア)
ハワイでもっとも良く環境に適応し、広く分布する植物
- ハワイでもっと多く分布する在来の植物。
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在来の動物はオヒアのような植物と共生することがあります。花蜜を餌とするアパパネやイイヴィ(ハワイミツスイの仲間)はレフアの蜜を吸って生きているため、オヒアの森が消滅すると、アパパネも絶滅の危機に瀕します。
レフアの花は通年で見られますが、春先に多く見られます。『ハワイアン・ガーデン』『フラの花100』など(平凡社)近藤純夫著
環境に応じて姿を変える植物
オヒアは、ハワイ諸島全土のおよそ20パーセント前後を占める、もっとも広範に分布するハワイ固有の樹木です。樹高は20 ~ 30cmから30 mを超すものまでさまざま。樹皮の質感や枝振り、葉の色や形状などは環境によって大きく異なります。
オヒアの花には花弁と萼がそれぞれ5枚ありますが、とても小さく、たいていは開花の初期に落ちてしまいます。あとに残された細長いブラシ状の部分は1本の雌しべと複数の雄しべで構成されていて、球形をしています。花色は赤が基本ですが、オレンジ色やクリーム色、黄色などもあります。オヒアはオヒアレフアとも呼ばれますが、これはこの木に咲く花がレフアと呼ばれるからです。花が終わると小さな種子がつき、風に乗って遠くまで飛ばされます。
黄色のレフア。しべの基部に小さな花弁と萼がついている
(近藤純夫)
オヒアは生育する環境によって大きく姿を変えます。カウアイ島のコケエの森では平均的な樹高は10mほどあるのですが、湿原に近づくにつれて次第に低くなり、湿原地帯に入ると樹高は50cmに満たなくなります。また、丈の高いオヒアは葉は薄く大きくなめらかですが、湿原地帯のオヒアは葉は小さくて分厚く、裏側には毛が密生しています。湿原のような栄養素の貧弱な場所では成長を阻害され、わずかな高さにしかなりません。
樹高30cmほどのオヒア(カウアイ島アラカイ湿原)(近藤純夫)
オヒアは過酷な環境でも強い生命力を発揮します。溶岩が流れたあとの黒々とした平原に最初に根づくのは、ふつう地衣類や苔類です。ハワイ諸島の溶岩平原では溶岩にカビが生えたような模様を見つけることができます。その後、岩の割れ目にクプクプ(タマシダ)やオヘロなどとともにオヒアが芽吹きます。植物が根づいていない溶岩大地は日差しが強く、乾燥している上に強風が吹き荒れます。種子が根づくには土壌が必要ですが、オヒアは根の部分に樹液を滲ませ、風に乗って飛んでくるわずかな土をキャッチしてゴムのように固め、拡散を防ぐという知恵を働かせます。
オヒアは陽差しを好む木なので、ひとたび森林を形成して木が密生した状態になると、陽の当たらない地面からは、新たなオヒアの芽は生長できません。本来、日陰には、日陰の環境で育つ植物が次の世代として定着するのですが、ハワイ諸島にはそのような性質の樹木がありませんでした。その結果、オヒアの森は寿命が来ると枯死してしまい、森は消滅してしまいます。しかし、地面に日差しが戻ると、発芽できなかった種子が生長をはじめ、やがて新しい世代のオヒアの森をつくりはじめるのです。オヒアはこのようにして、自ら新たな環境に対応し、形や性質を変えて生き延びてきました。
オヒアの森が新しくなると、以前とは異なる性質の木が出現することもあります。これまでとは異なる環境に適した形へと、自らを変えていくためです。これが、オヒアの学名(Polymorpha = さまざまな形に姿を変える)の由来ともなっています。
溶岩大地に生育するオヒア(ハワイ島キラウエア・イキ・クレーター)(近藤純夫)
◆火山活動とオヒアの関係
オヒアに咲く花(レフア)は赤いボンボン状をしています。この外観が炎に似ていることから、ハワイ島キラウエアに住むとされる火の女神ペレを連想させました。ハワイの伝統文化では、レフアはペレのキノ・ラウ(化身)として尊ばれたのです。
◆植物学情報
オヒア フトモモ科オガサワラフトモモ属
英名 :なし
ハワイ名:'Ōhi'a, 'Ōhi'a Lehua, Lehua
和名 :ハワイフトモモ
学名 :Metrosideros polymorpha
原産地 :ニイハウ島とカホオラヴェ島を除くハワイ諸島 / ハワイ固有種
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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