講座詳細
コア(アカシア・コア)
カヌーの材料となった植物
- カヌーの材料となった伝統文化を支える植物(固有種)。外来植物の進出による被害を受けやすく、保護・育成の努力を怠ることができません。
- コアの森は、カウアイ島のコケエ周辺やハワイ島のマウナ・ロア南麓、マウナ・ケア東麓(ハカラウの森)などがよく知られます。森はハワイミツスイ(イイヴィ)やハワイガラス(アララ)、コミミズク(プエオ)など、ハワイ固有の鳥の生息地となっているほか、オヒアとも共生し、オヒアを巨木へと育て上げるので、アパパネなど、オヒアと共生するハワイミツスイの多くがコアの森に生息します。
植物学的な特徴
コアは、ハワイ原産の樹木としては最大級で、30mを超す高さに生長します。直径0.7~1cmほどの、ボンボン状をした淡緑色の花をつけ、受粉を行なう頃になると花粉で黄色となります。
コアは小さな葉と大きな三日月型の葉の両方をつけます。小さな葉は本葉ですが、やがて葉から伸びる茎の部分(葉柄)が変形して、三日月型の葉となります。これを偽葉と言い、本来の葉に代わって光合成を行います。花の後にはサヤ状の豆果(8~30cm)をつけます。豆果は熟すと黒色になり、サヤがはぜて周辺に落ちます。しかし、コアの木は大量の水分を地下から汲み上げるため、コアどうしが密生して育つことはありません。
コアの葉(偽葉)と受粉した花(カウアイ島コケエ)(近藤純夫)
樹皮は明るい灰色で、材は赤く美しい光沢があります。また、木目がはっきりとしているのが特徴です。コアは巨木ですが柔軟性を備えるため、強い風が吹くと幹がしなります。その結果、材の内部には微妙なカーブが付きます。これはカーリー(トラ目)と呼ばれます。カーリーは光のあたる角度によってさまざまな色合いになるため、高級家具や楽器、工芸品などに好んで用いられます。
赤色をしたコア材。柔らかいので虫に食われやすい(ハワイ島マウンテンビュー)(近藤純夫)
◆保護と育成
コアの森はハワイ諸島の数カ所に残りますが、ハワイ島では全盛時の10分の1以下の規模しかありません。コアの森が急速に姿を消していった背景には、外来動物の増加があります。1793年にキャプテン・クックの航海にも同行したジョージ・バンクーバーは、その後カメハメハ大王に牛や羊を寄贈しました。バンクーバーの助言により、最初の10年間は牛に手をつけずに放牧したため、踏み荒らされたり食べられたりして、コアを含む周辺の固有植物は大きな打撃を受けました。
放牧から30年後、牛は野生植物だけでなく、他の動物や人の暮らしにも影響を与えるほど増え続け、当時のカメハメハ3世にとっても大きな政治課題となりました。その後のさまざまな保護活動により、コアはなんとか絶滅の危機を逃れましたが、コアの若葉は、牛や馬などの家畜や犬の好物であるため、いまも被害はなくなりません。
外来植物の繁殖によるコアの枯死も深刻です。マウナ・ケア南麓のコアはサルオガセのような地衣類や、藻類、菌類の寄生によって深刻な打撃を受けているほか、北東山麓に広がるハカラウの森周辺でもはハリエニシダなどの脅威に直面しています。そのため、いまも多くのボランティアが保護と育成に努めています。
マウナ・ケア山麓に広がるコアの原生林。左前方に山頂が見える(ハワイ島)(近藤純夫)
◆コアの文化
ハワイではかつてカヌーやサーフボードに用いられたほか、コアの葉を灰にしたものは虚弱児用の薬などに、樹皮はタパの染色に用いられました。19世紀以降は、家具や楽器など、木工芸品としての人気が高まり、リリ・ウオカラニ女王のピアノや、エマ女王に寄贈されたセント・ピータース教会の長椅子、あるいは、ハワイ島知事クアキニのフリヘエ・パレスや、彼の建てたモクアイカウア教会の説教壇や壁板など、歴史的建造物の要所に使われるようになりました。今日では、ウクレレや宝飾箱などの木工芸品として変わらぬ人気があります。
カーリー(トラ目)のあるコア材のウクレレ(近藤純夫)
◆植物学情報
コア マメ科アカシア属
学名 :Acacia koa
ハワイ名:Koa, Koai'a, Koai'e, Koa'oha
英名 :Koa wood
和名 :なし(コア)
原産地 :ニイハウ島とカホオラヴェ島を除くハワイ諸島 / ハワイ固有植物
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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