講座詳細
ケオプオラニ女王
神々の直系子孫ともされた、カメハメハ大王の聖なる妻
- カアフマヌ王妃がカメハメハ大王の「お気に入りの妻」なら、ケオプオラニは「聖なる妻」。
- ハワイ諸島最高位にあった崇高な王族だった。
- ハワイ王国君主2代目、3代目を生んだのもケオプオラニ王妃。
- 王族として初めてキリスト教の洗礼を受けた。
- ケオプオラニはあまりに神聖視されていたので、その影を踏んだ人は死刑になるほどだった。なので誰かがトラブルに陥るのを避けるため、ケオプオラニは日暮れ後しか外出しなかったといわれている。
マウイ島ラハイナのワイオラ教会にある、王家の霊廟
カメハメハ大王もひれ伏した聖なる王族女性
カメハメハ大王にはカアフマヌ王妃ほか20人を超える妃がいましたが、多くの夫人の中で最も位が高く、「聖なる妻」と呼ばれ崇められたのが、ケオプオラニ王妃(1778年―1823年)です。あまりの神聖さに、ケオプオラニの面前ではカメハメハ大王でさえ裸になって頭をたれ、膝立ちで擦り寄らなければなかったほど。また公共の場でケオプオラニの名がチャント(詠唱)に登場するたび、王族を含むその場の全員が、上半身の衣を脱いでひれ伏さなければならなかったそうです。
というのもハワイ王族の階級は細かく分けられており、カメハメハ大王が生きていた時代、ハワイ諸島全体で唯一、最高位に属していたのがケオプオラニでした。その父はハワイ島の酋長、母は、神々の直系子孫とみなされていたマウイ島のいにしえの大酋長ピイラニの血筋で、その家系図はハワイの四大神が創った初の人類まで遡れるとか。ケオプオラニは、ほぼ神々と同じ崇高なランクの王族とみなされていたのでした。
1790年、カメハメハ大王の軍勢がハワイ島からマウイ島に侵攻し、イアオ渓谷でマウイ軍と激突。マウイ島は攻落され、その際、12歳だったケオプオラニは戦士の背に背負われてイアオ渓谷から山越えし、ラハイナに逃れましたが、さらなる逃亡先のモロカイ島でカメハメハ大王の支配下に。ハワイ諸島統一のため、ケオプオラニが持つとされた神と同レベルのマナ(霊的なパワー)と、マウイ王族の権威とを必要としたカメハメハ大王は、ケオプオラニを妻に迎えました。
2人の間には3人の子供が生まれ、カメハメハ2世、3世の2人もケオプオラニの産んだ息子です。ほかの妻との間にも(カメハメハ2世より年上の)息子はいましたが、大王が自分の跡継ぎに選んだのは、ケオプオラニの高貴な血統を受け継ぐ子供達でした。
ケオプオラニ王妃の墓碑
王族初のクリスチャンに
優しい気性で権力欲もなく、政治の表舞台には登場しなかったケオプオラニ。ですがキリスト教に理解を示し、初めてクリスチャンになった王族として広く知られています。ハワイ島カイルア・コナに1820年、ボストンから初の宣教師が到着した際も、出迎えた王族の一団にケオプオラニの姿がありました。息子であるカメハメハ2世に、宣教師の上陸を許すよう勧めたのも、ケオプオラニだったとの説もあります。
その後オアフ島に移り住んだケオプオラニは、ハワイの原始宗教とは大きく異なるキリスト教に強い興味を抱き、西洋式の教育にも関心を持って、英語の読み書きも熱心に学んだそうです。1823年にはホノルルで出会ったアメリカ人宣教師のウィリアム・リチャーズらを伴って、故郷マウイ島に帰還。ケオプオラニはウィリアムにマウイ島での布教を勧め、実際、ウィリアムらに自身の所有する土地を与えました。その結果創設されたのが、マウイ最古の教会、ワイオラ教会です。
ケオプオラニ王妃ゆかりのワイオラ教会
しかしケオプオラニはマウイ島に戻ってすぐ、持病が悪化。わずか数ヶ月後の1823年9月、亡くなっています。死の床でケオプオラニはウィリアムによって洗礼を受け、ハワイ王族として初めてのクリスチャンとなりました。ケオプオラニは葬式も埋葬も全てキリスト教にのっとって行われることを望み、現在はワイオラ教会にある王家の霊廟に埋葬されています。
カメハメハ大王が亡くなった1819年に原始宗教が崩壊し、宗教上の空白期間が続いていた当時のハワイ。そこにキリスト教の教えがスムーズに広まった陰には、ケオプオラニの影響もあったのは確かでしょう。ケオプオラニ亡き後、娘のナヒエナエナ王女やカアフマヌ王妃をはじめ、多くの王族がキリスト教に帰依しています。
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⇒ワイオラ教会とモクウラ
⇒ナヒエナエナ王女
※イメージ画像はラハイナヘリテージ博物館の展示より
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex