灯火から食用まで、暮らしにもっとも深く関わった植物

• カヌーに積みこんだ重要植物（伝統植物）のなかでも、ククイはとくに重要な木だった。実（仁）をはじめ、枝、葉、花、幹、根に至るまで、あらゆる部位が暮らしに不可欠な素材だった。

• 葉にはファイバー状の繊毛があり、光の加減で銀色に輝く。その結果、遠くからでもククイの木だけは明るく輝いてみえる。

  「関連資料」
  『ハワイアン・ガーデン』『フラの花100』など（平凡社）近藤純夫著

特徴
ククイはハワイに自生する固有の植物ではありませんが、ハワイ州の木であるとともにモロカイ島の木として広く知られます。タヒチやトンガなど、他のポリネシアの島々でも人々の文化に深く関わってきました。

花と葉　（Sumio Kondo）

実の持つパワー
ククイの実に含まれる内部の白い油分は仁（じん）と呼ばれ、ハワイに鯨油がもたらされるまで灯火の燃料として用いられました。洞窟などの遺跡には、無数のククイの実が見つかっています。仁の油分は全体の50％以上にもなり、生でも火であぶると点火します。
この油はロミロミと呼ばれるハワイ式マッサージのオイルにも使われます。ククイの若い実を搾った油は、切り傷の手当に用いたほか、便秘薬や下剤としても用いられました。仁に塩をからめて炒めたものはイナモナと呼ばれる調味料となりました。ハワイ王朝時代には、年に約4万リットルのククイの実を肥料用として輸出したこともあります。

実のなかに含まれる仁（じん）
（Sumio Kondo）

万能の木
茎、樹皮、花、葉、材、根茎は薬用に、樹皮は赤色の染色や薬用に、樹液とハウの蕾を調合したものは、出産の傷みを緩和する薬として用いられました。花は果汁を絞り出して口内炎などの治療に、葉はレイの素材や薬用に、材はカヌーのブイや漁網の浮き、火熾し用具などに、根は黒と茶色の染料や薬用に用いられました。

伝承
ククイは信仰の世界でも重要な役割を果たしました。炎から生じる煤は神々への祈りを込めて描く入れ墨の素材となり、仁は魔除けとして用いられました。油の放つ腐臭が災難を遠ざけると信じられたからです。ククイには濁りを取り除くという意味もあります。植物の樹液は水に落とすと溶けるか拡散しますが、ククイオイルは水に垂らした油のように、決して混ざり合うことがありません。
ハワイの創世を語る『クムリポ』という叙事詩があり、ククイはこのなかで「われわれ人間を護る木」とされます。タヒチでも「われわれの土地に光をもたらす木」と言われており、ポリネシアの精神世界では欠かすことのできない重要な木であったことが伺えます。

ククイの木（Sumio Kondo）

植物学情報
ククイ　　トウダイグサ科アブラギリ属
英名：Candle Nut Tree
 ハワイ名：Kukui
和名：ククイノキ、ハワイアブラギリ
学名：Aleurites moluccana
原産地：マレー半島、太平洋諸島 / 外来種
特徴：常緑の落葉高木で樹高は15～20m。小さな花の集合体は20～40cm。花弁は白に近いクリーム色か、淡いピンク色。ハワイ諸島では比較的低地に生育する。葉は20cmほどで表面に繊毛があり、カエデのように三裂する。樹皮はグァバに似て滑らか。マンゴーの花に似ている。実は直径4cm～7cm ほど。