講座詳細
ハウ
ロープや薬用に不可欠の植物
- ハウは素早く色を変化させる。
- 花は、朝の咲きはじめは明るいクリーム色をしているが、次第に濃い黄色となり、夕暮れ時には濃赤色となって落ちる。
- 薬の調合用、漁師の道具などに用いられた。
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カウアイ島のワイルア川やハエナ地区、ハワイ島のコハラ半島にはハウの大きな群落がある。
「関連資料」
『ハワイアン・ガーデン』『フラの花100』など(平凡社)近藤純夫著
クリーム色から黄色に変化した花弁
(Sumio Kondo)
繊維の活用
ハイビスカスの近縁であるハウは昔からアリイ(首長)の許可なく利用することはできませんでした。
ハウの木はとても比重が軽い上に塩害に強く、樹皮から取り出した繊維で編んだ糸はさまざまな用途に用いられました。
樹皮の内側にある繊維層からはロープが作られ、イブ(ヒョウタン製の楽器)を手に結びつけるヒモや、漁網、カバ(服やゴザの生地)などに用いられました。また、太い枝からはカヌーの帆桁が作られました。ハウの根はよく発達しますが、主根からは褐色の染色素材が採れました。
海を守る
ハウは信仰の面でも大きな役割を担いました。塩害に強く、海岸や川辺に群落をつくるため、水を司る植物として大切にされたのです。ハワイの暮らしには多くのカプ(規則)がありました。たとえば、魚の産卵期には禁漁となりますが、このとき海岸にはハウの木を立てて目印としました。これを破ると死を持って償わなければならないという厳しいものでした。また、神話のなかには、女神ヒナ(あるいはヒナの姉妹)がハウに姿を変えたという伝説もあります。
夕暮れどき、赤色に変化した花弁(Sumio Kondo)
万能の樹液
ハウはあらゆる樹木の部位が薬用とされました。とくに蕾や茎、幹などから採れる粘り気のある樹液はさまざまな用途に利用されました。処方には細かな決め事があり、たとえば生後3日から4週間の乳児には蕾から採った花汁を便秘薬として使いましたが、この花汁を飲むのは夜寝る前と決められていました。
主根は煎じて解熱剤としました。胸焼けやむかつきには若い枝部分の樹皮から採れる樹液に、他の植物の樹液と水を調合して用いました。陣痛の女性には樹液を水で薄めたものを飲ませたり、腹部に塗って痛みを和らげたりしました。この他にも、喉の痛みには若い薬をすり潰して出る樹液を水で薄めて飲ませたり、花汁を乳児の離乳食として用いたりもしました。歯痛や胸の痛みの緩和などにも効果があったようです。このようにハウは万能の薬としてハワイの伝統生活になくてはならない存在でした。
カハウの樹皮をはぎ、ロープを編む(Sumio Kondo)
植物学情報
ハウ アオイ科フヨウ属
英名:Cottonwood,Beach Hibiscus
ハワイ名:Hau
和名:オオハマボウ、ユウナ
学名:Hibiscus tiliaceus
原産地:マレーシア~太平洋諸島 / 伝統植物または固有植物
特徴:常緑の低木~高木。樹高は2~20m。花のサイズは7~9cm。葉のサイズは10~15cmで丸みを帯び、先端が少し尖る。枝や根はよく分岐し、林床は人が通れないほどに密生する。花は朝に開花し、明るいクリーム色の花をつける。夕暮れ時、あるいは翌日に濃いオレンジ色となって落ちる一日花。塩害に強く、海辺に根を下ろすこともできる。
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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