講座詳細
動物の体系
ハワイ固有の動物と外来の動物がつくり出す自然
- ハワイの在来動物は、そのほとんどが固有種です。その理由はハワイが絶海の孤島であるためです。いくつかの偶然が重なり、何千年、何万年に一度というごくわずかな確率で少しずつハワイに住みついた動植物は、他のどの陸地とも異なる独自の動物体系を築き上げました。
- しかし、とくに西欧社会との接触以降、大量に持ちこまれた家畜やペットなどによって、在来の動物の多くが絶滅の危機に瀕しています。
- ハワイ在来の動物の多くは、生息数を減らしており、簡単に見ることはできません。オアフ島やハワイ島であれば動物園などでそのうちのいくつかを観察できます。
絶滅の危惧に瀕している在来の動物たち
植物の項でも説明したように、ハワイ諸島は絶海の孤島(大洋島)です。そのため、動物が海を渡ってハワイ諸島に根づく可能性は極めて低く、大陸と較べるとその種類は決して多くはありません。鳥類は52種、哺乳類は2種しかいないのです。この他に淡水魚類が5種、陸産の貝類が1000種ほど、昆虫類が5100種ほどいるので、合計は6千を少し超える程度となります。ポリネシアの人々が諸島に住みついた後、これらの動物は絶滅したり、絶滅の危機にさらされたりしてきました。世界と交わるようになったこの200年は、おびただしい数の外来種がハワイに定着し、在来の動物や植物に深刻な影響を与えています。
◆人が持ちこんだ動物たちの影響
ハワイには植物と同様、先住のハワイ人が持ちこんだ動物がいます。プアア(ブタ)、イーリオ(イヌ)、モア(ニワトリ)の3種*で、いずれも食用でした。このうちプアアとモアは野生化していますが、イーリオは絶滅しました。プアアについては在来の植物に大きな影響を与えるため、環境保護団体は駆除を提起しています。しかし先住のハワイ人たちは伝統文化の消滅になると反対しており、解決の目途は立っていません。
プアア以上に大きなインパクトを与えているのが、西欧をはじめ、各国から持ちこまれた動物です。これらの外来種に大きな影響を受けているものに、以下の鳥類がリストアップされています。(※絶滅種を含む2020年現在のデータ)
Drepanididae ハワイミツスイ科(イイヴィ、他) 42
Turdidae ツグミ科(オマオ、他) 5
Sylviidae ウグイス科(レイサンヨシキリドリ、他)2
Monarchidae カササギヒタキ科(エレパイオ、他)3
Corvidae カラス科(アララー)1
Accipitridae ワシタカ科(イオ)1
Diomedeidae アホウドリ科(モーリー、他)2
Anatidae カモ科(ネーネー、他)3
☆Recurvirostridae セイタカシギ科(アエオ)1
☆Laridae カモメ科(ヒメクロアジサシ)1
☆Procellariidae ミズナギドリ科(ハワイマンクスミズナギドリ、他)4
☆Rallidae クイナ科(アラエ・ケア、他) 4
Strigidae フクロウ科(プエオ、他) 1
Mohoidae フサミツスイ科(絶滅)5
捕獲された野ブタ(ハワイ島キラウエア)
◆ハワイ固有の動物たち
渡りをやめただけでなく、水辺で暮らすことまでやめてしまったネネ(ハワイガン)、蝿を補食するシャクガの幼虫、ママネの実しか食べないパリラ(ハワイミツスイの一種)、同じくイエイエのみしか食べないアララ(ハワイガラス)、そのイエイエのわずかな水たまりに生息するヨコエビ、パステルカラーに塗り分けられたカマロリ(ハワイのカタツムリ)など、ハワイには他のどこにも見られない独自の生態系を持つ動物がたくさんいます。
これらの動物は突然ハワイに誕生したわけではありませんから先祖がいます。ネネはカナダガン、アララはアメリカガラスがハワイ諸島に住みついて独自の進化を遂げたものです。ショウジョウバエもそのひとつですが、ハワイではもっとも多く分化が進み、世界に3000種いるとされるショウジョウバエの実に3分の1がハワイ諸島に生息します。
アパパネ(ハワイ島キラウエア)
◆外来の動物との試行錯誤
ハワイでは有害動物を駆除するため、さまざまな動物が持ちこまれました。たとえば ネズミの食害に対応するためマングースを持ちこみましたが、ネズミは昼行性、マングースは夜行性のため効果が出ませんでした。それだけでは収まらず、ネコとともにネネの卵を食べるようになったのです。駆除動物に関する失敗は他にも数多くあり、いまも有害植物を駆除する根本的な解決法は見つかっていません。もっとも、これはハワイ州に限った話ではなく、世界のどこでも似た状況にあります。解決までの道筋はまだ見えていません。
カウアイ島のアラカイ湿原には一部に木道が敷かれ、自然愛好家にとっては嬉しい環境になりましたが、この木道をつたってイヌやネコ、野ブタなどが入りこみ、湿原によって守られていた原生の自然が脅威にさらされるという事態になりました。環境政策は必ずしも万能ではないという一例です。
西欧人が住みつきはじめると、先住のハワイ人たちは彼らが持ちこんだ伝染病に倒れ、またたく間に人口を10分の1ほどに減らしたように、島の動物もきわめて脆弱です。そのため、今日ではペットの導入に際し、厳しい検疫体制が敷かれています。
絶滅の危機を脱していないハワイ・モンクアザラシ(カウアイ島ポイプー・ビーチ)
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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