講座詳細
ハイラム・ビンガム
ハワイにおけるキリスト教宣教師のパイオニア
- ハワイ入りした宣教師団はビンガムらのグループが第一弾だった
- ビンガムはカワイアハオ教会の初代牧師を務めた
ハワイが迎えた初の宣教師団のリーダー
ハイラム・ビンガムは、バーモント州生まれのプロテスタント宣教師。ハワイに渡った初のキリスト教宣教師団を率いた牧師で、いわばハワイのキリスト教伝道のパイオニアとも呼べる人物です。王族も通ったカワイアハオ教会の初代牧師として、また初期のアメリカ人宣教師達のリーダーとして、ハワイ史に深くその名を刻んでいます。
ビンガムは1789年、バーモント州の農家に、6人兄弟の5番目として生まれました。農業に従事するという選択肢の代わりに宗教家としての道を選択し、同州の名門、ミドルベリー大学を卒業する直前の1816年。同じく牧師だった兄の勧めで海外での布教に興味を抱いたビンガム。ハワイアン初のクリスチャンだったヘンリー・オプカハイアの話を耳にしたこともあって、後にハワイへの宣教師団に加わる決意をしたとされています。
ハイラム・ビンガムが創設したホノルルのカワイアハオ教会
ビンガムとその妻を含む一行12人が、ボストン港を出発したのは、1819年10月。当時ボストンからハワイへの船旅は、南アフリカのケープホーン岬沖を巡り、半年をかけてのまさに命がけの旅でした。やっとハワイに行き着いても、布教が許されるかどうかは全くの未知数。しかも欧米人の宣教師が太平洋のほかの島々で上陸を拒否され、ひどい扱いを受ける前例もあったことから、初の宣教師団を率いたビンガムは、勇気と使命感溢れる人だったのは確かでしょう。ハワイに到着した時(1820年3月)、ビンガムは31歳でした。
1820年といえばカメハメハ大王が死去した年の翌年です。カメハメハ2世とその義母で後見人のカアフマヌ王妃により、ハワイ古来の宗教が排された直後に、ビンガムらはハワイ島カイルア・コナに到着。ちょうど宗教的な空白時期だったこともあり、カメハメハ2世に布教を許され、一団はカイルア・コナに上陸します。一団はカイルア・コナとカウアイ島、オアフ島に分かれて布教することとなり、ビンガム一行はホノルルへ。ダウンタウンの土地を与えられ、住居&伝道本部としました(この地に後に建てられたのが、現ハワイアン・ミッションハウス史跡史料館です)。
ビンガム一家が暮らした宣教師館(現ハワイアン・ミッションハウス史跡史料館)
王国の政治に干渉
ビンガムはまた、現ハワイアン・ミッションハウス史跡史料館の隣地に伝道所を作りました。それがオアフ島最古の教会、カワイアハオ教会の始まりです。当初は藁葺きの小屋のようなものでしたが、後に現在の珊瑚造りの強固な教会が完成。その建物のデザインをしたのもビンガムでした。
こうして、カアフマヌ王妃をはじめ、多くの王族の支持を得たビンガム。ハワイ語のアルファベット表記の開発にもビンガムは加わり、多くの功績を残しましたが、反面、各方面から広く批判される存在でもありました。後にハワイにやってきたカソリックの宣教師など、プロテスタント以外の宗教グループを排除しようと画策したこと。また風紀改善を目的に政治にまで口を出したことなどが、その原因です。特にカアフマヌ女王に働きかけて飲酒やギャンブル、外国人とハワイアン女性との関わりを禁じた際には船員達の暴動を招き、実際この1件により、ビンガムは船員グループに襲撃もされています。
宣教師としての範疇を越え、ハワイ王国の政治に口出ししすぎるビンガムを、本国のプロテスタント教会も懸念していたという説がありますし、実際、その強引なやり口に不満を覚える人々も多かったよう。外国人やハワイアンだけでなく、同僚である宣教師グループの間でも摩擦を起こすことがあり、いわゆる賛否両論の人物だったことがわかります。
妻の病気のため1840年、一度カワイアハオ教会の牧師を辞し、ボストンに戻ったビンガム。妻の死後、再びハワイに戻るつもりでいたのですが、以上のような背景から、プロテスタント教会が再度ビンガムをハワイに派遣することはありませんでした。1869年、コネチカット州で80歳で死去してなお、ハワイ内外でその評価は分かれるところです。
付帯的な情報・発展情報
ハイラム・ビンガム2世は父と同じく聖職に就き、その息子である3世は考古学者となってペルーのマチュピチュ遺跡を西洋社会に初めて紹介しました。彼は映画「インディアナ・ジョーンズ」の主人公のモデルの一人とされています。初代ハイラム・ビンガム自身も、ジェームズ・ミッチェナー作の小説「ハワイ」中の登場人物、アブナーのモデルとされています。
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex