講座詳細
カヒコとアウアナ
フラには古典スタイルのフラとモダン・スタイルのフラがあります。ふたつのスタイルの違いと時代背景を知ろう。
- フラとは歌(言葉)と踊りをひとつにしたもの
- フラには古典とモダンとがある
- 古典フラを学ぶとき、最初の課題曲はカラカウアをたたえる歌が選ばれる
フラの定義
ハワイの人たちに世代を超えて伝えられた伝統芸能「フラ」とは何なのか。
フラの定義にこういうものがあります。
「歌(チャント)と踊りのこと。身振り、ジェスチャーは言葉と連動しており、その踊りは抽象的表現ではなく、動きに具体的な意味をしたがえた踊りである。」
つまり、歌と踊りを合わせて「フラ」と呼びます。ストーリーを伝える「言葉」なしでフラは踊れないというわけです。この本質は、時代を超えて現代まで変わることなく継承されています。
18世紀から19世紀にかけて、西洋人とキリスト教の影響で禁圧されたフラを復活させたハワイ国王デビッド・カラカウアは、フラについてこう定義しています。
「フラは心の言語である。すなわちハワイ人の心臓の鼓動そのものだ。」
フラを愛しハワイアンの伝統文化を推進したカラカウア王のこの言葉は、フラそしてハワイの文化の理解を深めれば深めるほど重い響きを持つものであることがわかってきます。
言葉を編んで作った歌を踊りで表現するフラは、時代とともに変化・発展を続けてきました。とくにハワイ社会全体が西洋化されるようになった19世紀以降の変化は大きなものでした。しかしそれ以前の何世紀ものあいだずっと伝えられてきたフラの本質は現在も継承されています。そして私たちは、フラの本質の源流である古代ハワイアンのフラを「フラ・カヒコ」に見出すことができます。
イプヘケを叩きチャントを歌うカワイカプオカラニ・ヒューエット氏
フラ・カヒコとは何か?
フラは大きく2つに分類されます。ひとつは一般的に見られる、ウクレレやギターなどの楽器の演奏をバックに歌うハワイアン・ミュージックに合わせて踊られる現代のフラ、フラ・アウアナ。そしてもうひとつは、打楽器のビートをバックに歌うチャントに合わせて踊られる古典フラ、フラ・カヒコです。
「カヒコ(Kahiko)」はハワイ語で「古い」「古代の」という意味。つまりフラ・カヒコは「古典フラ」のこと。「古典フラ」に相対する「モダン・フラ」が「フラ・アウアナ(ʻAuana)」と呼ばれます。
ハワイ語で「アウアナ」は「漂う/さまよう」、「正道をそれる」という意味があります。
フラ・アウアナのスタイルが登場したのは今から約一世紀半前、西洋の楽器がハワイにもたらされてからです。カラカウアが復活させたフラが、西洋楽器の伴奏をしたがえた新しいスタイルのハワイアン・ミュージックに合わせて踊られるようになったのです。この時、それ以前から伝えられてきた、儀式や奉納としての伝統的なフラ(フラ・クアフ)は総称して「フラ・カヒコ」と呼ばれるようになったわけです。
フラ・カヒコはチャンターが唱える歌と打楽器のリズムに合わせて踊られます。使われる打楽器にはパフ(ヤシの木などの幹を彫りだした太鼓)、イプ(ひょうたん)、イリイリ(小石)、ウリウリ(殻と種)、プーイリ(竹)、カラアウ(樹の枝から削りだしたスティック)などがあります。
フラ・カヒコで踊られる歌の内容は主にハワイの自然への讃歌であり、自然という形で存在する神、また位の高い首長や王への讃歌です。
フラ・カヒコがどんな内容の歌に合わせて踊られるのか、アドバイザーのクムフラ・カワイカプオカラニ・ヒューエット氏に一例をあげていただきました。
「私が最初に学んだカヒコは他の多くのフラダンサーと同じく、Kāwikaでした。記念すべきカヒコ一曲目のレッスンは、ひたすらステップの練習でした。ステップに問題がないと認められるまで、ハンド・モーションには移ってもらえませんでした。」
ハワイ語の歌の内容をヒューエット氏に訳していただきました。
Kāwika
現るはデビッド
人民によって選ばれた人
東に光る稲妻
ハワイに光を点す
彼の名声は英国にも届く
フランスの女王の耳にも
この誇り高き人物をリーダーに
首長カパアケアの血を引く
もう一度伝えよう
キング・デビッドの栄光を
この歌のなかに出てくるキング・デビッドとは、ハワイ王国第7代国王、デビッド・カラカウアのこと。Kāwika はデビッド(David)のハワイ語なのです。伝統芸能フラの原点であるフラ・カヒコを学ぶときの最初の課題曲に、フラ伝統の救世主をたたえる歌が多くのフラスクールで選ばれているのは偶然ではないのです。
-
よしみ Nui だいすけDaisuke Yoshimi担当講師
【インタビュー動画あり】 1967年2月9日生まれ、神奈川県横須賀出身。1991 年よりハワイ在住。ハワイ大学卒業。フラ、ハワイ音楽に傾倒するハワイ・スペシャリストとして、ハワイを拠点に執筆・コーディネート活動を行う。ハワイのクムフラやミュージシャンとの親交も幅広い。フラダンサーとして、メリー・モナーク、キング・カメハメハの大会出場経験あり。著書に『たくさんのメレから集めた言葉たち』シリーズ、『LIVE ALOHA~アロハに生きるハワイアンの教え』がある。近年、フラダンサーを対象とした日本での講演・セミナー活動に力を入れている。
facebook: https://www.facebook.com/NuiDaisuke
公式HP: http://www.yoshimidaisuke.com/