講座詳細
気象観測所の役割
ハワイ諸島が担う地球の監視
地球の平均気温を測る
ハワイ島マウナ・ロアの標高3397メートルという高所に気象観測所があります。とても小さな観測施設ですが、合衆国の海洋大気庁に所属し、地球環境にきわめて重要な観察を行っています。世界では地球温暖化の問題が長く懸念されてきました。その原因は大気中の二酸化炭素濃度の上昇にあるとされています。しかし大気の成分は測定する地域によって異なりますから、地球全体の平均値を出す作業は簡単ではありません。そこで注目されたのがハワイ島です。マウナ・ロアは、特定の要因に影響を受けにくい環境があるからです。
ハワイ諸島は大洋島です。もっとも近い大陸から3000km以上も離れているので、瞬間的な数値や特定地域の影響を受けにくく、地球全体の平均に近い値を得られます。それに加え、高所にあるので地上の影響も受けにくいのです。ただし、島内には噴煙を上げる活火山がいくつもあるので、その影響を受けないように、条件を厳しく設定しています。
マウナ・ロアと同じような観測所は、地球上の陸と海(船上)に設けられていて、日々観測を続けています。また、温暖化に関しては海水温の調査なども行います。
マウナ・ロア気象観測所
下に添えたグラフを見るとわかるように、二酸化炭素濃度はほぼ一貫して上昇しています。しかもその曲線(キーリング曲線と呼ばれます)は少しずつ 増加しています。地球は氷期と間氷期を繰り返しながら今日に至っており、現在は第4間氷期にあります。二酸化炭素濃度の検出は1957年から開始されてい ますが、減少することは一度もありません。大気の観測に並行し、海面温度も観察されています。こちらは1891年から行われており、その当時から海水温は 上昇を続けています。今日ほど活発な産業活動がなかった時代であることを考えると、間氷期の気温上昇は、人類の活動の有無を問わず続いているのかもしれ ません。しかし、大気中の二酸化酸素濃度は300~500万年前から今日の濃度に達したことはないとされます。その時代は地球の気温が現在より数度高く、 海水面も20~40メートル高かったとされますます。マウナ・ロア気象観測所では、地球温暖化の解決に向け、さらなる研究を続けています。
二酸化炭素濃度など、温室効果ガスの観測は、ハワイ島のマウナ・ロア気象観測所が世界で最初に行い、その濃度が増え続けていると世界に発表しました。世界が注視するなか、今後も地道な観測を通じて地球環境の変化を告げていくことでしょう。
さまざまな地球観測
マウナ・ロアの気象観測所は二酸化炭素濃度の観測施設としてスタートしましたが、今日では温室効果ガス観測のほかに、太陽観測(太陽光の透過観察)や大気上の水蒸気分布、エアロゾル、ハロ化合物(臭素)、非メタン炭化水素、大気中のオゾン、放射線の測定など、さまざまな物質に関する観測と研究を行っています。また、ヒロ空港の古い敷地では成層圏のオゾンを測定するため、毎週観測気球を上げています。
大気中の二酸化ガス濃度グラフ
その他の施設
ハワイ島にはキウラエア・カルデラの火口脇に火山観測所があり、活発な火山活動を続けるキラウエア火山の調査を行なっています。また、カウアイ島には地球物理観測所が、マウイ島のハレアカラ山には惑星圏観測所などがあります。日本の研究施設も多く、ハワイ島のマウナ・ケアにはすばる望遠鏡が、マウイ島のハレアカラ山には東京大学や東北大学の望遠鏡が活躍しています。東北大学の望遠鏡は福島県飯舘村にあった小規模な望遠鏡ですが福島第1原発事故で観測不能になったため、ハワイ大学が仲介して移設されたものです。東北大学ではさらに大型のプロジェクトを、ハワイ大学とともに計画しています。
雲海に突き出たマウナ・ケア(手前)とマウナ・ロア(奥)
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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