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ワケアとパパ
- 父なる空の神ワケアと母なる大地の神パパによって、多くの島々が誕生した
【ワケアとパパによる島々の創造】
ワケアは父なる空の神。妻のパパは母なる大地の神。2人はこの世の創造主としてハワイ神話に描かれ、ハワイの島々は主にワケアとパパによって創られたのだそうです。
昔々の大昔。この世がまだ混沌としていた時代に、ワケアとパパは次々に子供をもうけました。まず生まれたのがハワイ島とマウイ島、モロキニ島、カホオラヴェ島でした。
2人の間には、島だけではなく娘も生まれました。娘はホオホクカラニと名づけられ、世にも美しい女性に成長。すると、なんとワケアは娘に恋をしたのです。妻を欺いて娘と夜をともにしたのがばれ、パパは激怒し、ワケアから去っていきました。
パパは次に人間の酋長ルアと結婚し、2人の間にはオアフ島が生まれました。そのため、オアフ島は大昔、オアフ・ア・ルア(ルアのオアフ島)と呼ばれていました。ルア以外の男性ともパパはタヒチで結ばれ、彼の地で子孫を残した、という説もあります。
一方、ワケアの方でもある時、海に漂っていた女神ヒナを救い上げ、ヒナとの間にモロカイ島をもうけました。モロカイ島も、昔はモロカイ・オ・ヒナ(ヒナのモロカイ島)と呼ばれていました。
こうして一度は仲違いし、それぞれ異なる相手との間に島々を創造したワケアとパパですが、その後仲直り。2人から、今度はカウアイ島、ニイハウ島、レフア島、カウラ島、ニホア島が生まれました(地質学上、ハワイ諸島でも最古と言われる北方の島々ですが、神話の上では最後に生まれたとされています)。
ちなみに、ワケアとその娘ホオホクカラニの間に生まれた第一子は、死産でした。地中に埋められたその遺骸からは、後にタロイモの茎が生えてきました。第二子は男の子で、ハワイアン民族の始祖になりました。タロイモとハワイアン民族が兄弟だとみなされるのは、そんな理由からです。
【神の宿るブレッドフルーツの木】
創世記とは異なる物語のなかで、昔々、ワケアとパパはタヒチを出航し、オアフ島にやってきました。2人は果物の木がたくさん茂るホノルルの山間に住処を見つけ、幸せに暮らしていました。
そんなある日、パパは遠くの浜辺に遠征。たくさんの海藻や蟹を見つけ、喜んで山に帰ってくると、ある男性が不吉なニュースを持ってやってきました。土地の酋長の手下にワケアが捕えられ、連行されたというのです。新参者であるワケアとパパが山で果物を集めるのを、酋長はいまいましく思っていたので、ワケアを処刑しようと目論んでいたのでした。
パパと酋長の手下達が出会ったのが、ヌウアヌ川のワイカハルルの滝の上だったとされる
そこで慌ててパパが山を降りていくと、ワケアを引っ立てていく一行を見つけました。パパはワケアの命乞いをしましたが、聞き入れてくれません。そこで「最後のお願いです。夫にお別れを言わせてください」と懇願したパパ。願いが聞き入れられ、パパはワケアに駆け寄って、しっかりと抱きしめたのでした。
その時です。2人の近くにあったブレッドフルーツの木の幹が、ぽっかりと開いたではありませんか! パパはこの機を逃すまいとワケアの手を素早く取り、ブレッドフルーツの木に飛び込みました。すると幹は再びしっかりと閉じ、2人の姿を消し去ってしまいました。
実をたくさんつけるブレッドフルーツの木
驚いたのは酋長の手下達です。木の周りを何度も回って探しましたが、2人の姿も、木の割れ目も見つかりません。実はその時、2人はもう幹の中にはいませんでした。幹の反対側に開いた穴から、とっくに逃げ出していたのです。
困った酋長は手下に、ブレッドフルーツの木を切り倒すよう命じました。そこである男が斧をふるうと、木片が男に当たり、死んでしまいました。2人目の男が斧をふるったところ、またしても同じことが起こりました! こうして木に手を出す男達が次々、倒れてしまったのです。
女神パパにゆかりのあるプエフエフの泉からの支流が、
今もヌウアヌを流れる。写真は支流にかかる橋の一部
恐れおののいた一行はカフナ(神官)に助けを求めました。するとカフナは宣言しました。「木に飛び込んだ女は人間ではない。タヒチからやってきた女神パパだったのだ。敬意を持ってパパに接すれば、お前達に、もう危害は与えられないだろう」
そこで酋長はパパとワケアが隠れていたブレッドフルーツの木にさまざまなお供えをし、祈祷を捧げました。すると、やっと木は無事に切り倒され、木から造られた神像は、ハワイ諸島中に名の知られた神像となりました。神像は戦争に打ち勝つ力、その領土を賢く統率する力を持ち主に授ける―と信じられたからです。そのためあのカメハメハ大王も、一時、神像を所有していたことが知られています。
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex