講座詳細
メネフネ2「ラカのカヌー」「メネフネの旅立ち」
ハワイから多数のメネフネ族が消えた経緯を示す、ユニークな伝説も残る
- メネフネ伝説は多く、伝説によればメネフネは常に団体行動する、とされている。
- 人間のためにカヌーやヘイアウ、養魚池を作る伝説が数多く残っている。
「ラカのカヌー」
昔々、マウイ島にラカという少年がいました。ラカの父は昔、カヌーで出かけたきり帰らず、ラカは母と祖母との3人暮らし。ですがラカは成長するとともに父を思う気持ちが強くなり、父の行方を探しに出かけたい、と祖母に相談を持ちかけたのでした。
話を聞いた祖母は、ラカに言いました。「出かけるがよい。でもそのためにはカヌーが必要だよ。山に行って、三日月型の葉をつけた木を切り出して、カヌーを作りなさい」
そこでさっそくラカは山に出かけ、祖母の言葉通りの木を見つけました。喜んで木を切り倒し、その日は帰宅。翌朝、山に戻りましたが、そこに横たわっているはずの木がありません。周りを注意深く探してみましたが、前日切り出した木は、見つかりませんでした。
ラカは仕方なく、また木を切り倒しましたが、どういうわけでしょう。2本目の木まで、翌朝消え去っているではありませんか。同じことが3度、4度と起こり、途方に暮れたラカ。今度は切り倒した木の陰に隠れ、待ち伏せすることにしました。
長い間待ち続け、夜のとばりが訪れた頃。どこからともなく大勢が行進する足音と、歌声が聞こえてきました。間もなく小さな男達が続々と現れ、ラカが切り倒した木を囲むと、そのまま持ち去ろうとしました。そうです。木がなくなったのは、メネフネと呼ばれる小人達の仕業だったのです!
さっそくラカがメネフネの目の前に飛び出すと、メネフネは一斉に逃げ出しました。しかしラカはメネフネの一人を捕まえ、叱りつけました。「よくも僕の木を盗んだな! 何度も何度も!」
するとメネフネは震えながら命乞いをしました。「どうか殺さないでください! 僕達、悪気はなかったのです。もし傷つけないでいてくれたら、お礼に立派なカヌーを作ってあげましょう」。メネフネ族は手先が器用なことで知られ、カヌー作りや、石を使ったヘイアウ(神殿)建築や養魚池作りなどが大変得意なのでした。
メネフネが造ったとされるヘイアウの1つ、クカオオヘイアウ(オアフ島マノア)
そこでラカはメネフネを放し、代わりにカヌーを作ってもらう約束を取り付けました。さっそく翌朝、ラカが、メネフネが言ったように切り倒した木のあった場所に出かけると。そこには美しいカヌーが置いてあるではありませんか。メネフネ達は約束を守り、一晩のうちにカヌーを完成させたのです。カヌーの脇には、パドルまで揃っていました。
ラカの祖母はメネフネのことを聞き知っていました。そこでメネフネの好物だというエビやタロイモの葉の料理を、ラカに持っていかせることにしました。そして翌日の晩。カヌーを浜辺まで運ぶために戻ってきたメネフネ達は、ラカの祖母の心尽くしのご馳走を喜んで食べ、一列に並んで山へ帰って行ったそうです。
メネフネが悪魔を閉じ込めたという伝説の残るマニニホロ洞窟(カウアイ島ハエナ)。メネフネ族はこの洞窟の前で集合し、カヌーで出立したとされる
「メネフネの旅立ち」
メネフネ達がカウアイ島に移り住んで、長い年月が過ぎたある日のこと。メネフネの王はメネフネ族全員を集めると、言いわたしました。「明日の夜、我々はハワイから出て行くことにする」。
当時カウアイ島では、たくさんのメネフネが地元のハワイアンと結婚していました。その子供達は当然、メネフネ族とハワイアン民族の半々の混血ということになります。純粋なメネフネ民族が減っていくことに危惧を覚えた王は、ハワイを出てメネフネの故郷に帰ることにしたのでした。
しかも王は、メネフネ民族だけが島を出ていく、とキッパリ宣言。「ハワイアンの伴侶や、ハワイアンとの間に生まれた子供達は置いていくこと。心配はない。今、私達が渓谷に植えた果物の木は大きく育ち、実が熟している。その果物には手をつけず、全て妻や子供達のために残していこう」
王がそう言った時、メネフネ達は水を打ったように静まり返りました。長い沈黙が続きましたが、ついにモヒキアという男が声を上げました。「自分にはハワイアンの妻がいます。息子は、もうすぐ一人前になろうとしています。どうぞ私をこのままカウアイに残し、代わりに息子を連れて行ってください。息子は私より頑丈だし、私の持っていたカヌー造りの技術は全て息子に仕込んであります」
しかしモヒキアの要望は、あっさり退けられてしまいました。「ダメだ! メネフネは全員、明日の夜、ハワイを出立する。島の果物は全て妻と子供達に残していく」
こうして数多くのメネフネが、カウアイ島から出航。それらのメネフネは、2度とカウアイ島の地を踏むことはありませんでした。
ただし。本当のことを言うと、実際にメネフネ全員が故郷に帰ったわけではありませんでした。こっそり山奥の洞窟や木の洞に隠れ、ハワイアンの家族とともに暮らし続けたメネフネも、少なからずいたようです。王に抗議したモヒキアも、そんなメネフネの一人だったに違いありません。
そんなわけでカウアイ島の山奥深くでは、今もその時のメネフネ族の子孫達が、静かに暮らしている…と信じられています。
付帯的な情報・発展情報
この物語りにはまた、カヌーを手に入れたラカが父親を探しに船出し、父親を見つけるーという、ハッピーエンドのバージョンも存在します。
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex