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ヘエ ホルア
- 古くから伝わるハワイの伝統的な競技は多くありましたが、その中で火山の女神ペレの伝説にまつわる王族の競技が「ヘエ ホルア」でした。
海のサーフィン「ヘエ ナル」、山のソリ「ヘエ ホルア」
頭を下にして腹這いになり、細いソリで山の急斜面を滑り降りる、ハワイに古くから伝わる競技「ヘエ ホルア」。体の半分にも満たないほど幅が細く長いソリ「パパ ホルア」(papa hōlua)に乗り、山の急斜面をスキーの直滑降のようにフルスピードで滑り降りる、かなりの勇気を要するスポーツです。
ハワイで昔から楽しまれていた大波の上を滑る波乗り。波はハワイ語でナル(nalu)。サーフィンは波の上を滑るのでヘエ ナル(heʻe nalu) と云うのに対し、山の斜面を滑るのはヘエ ホルア(heʻe hōlua)。しかし、ヘエ ナルは一般の老若男女も楽しんだのに対し、ヘエ ホルアは王族(Ali’i) のみが行う競技でした。こんな果敢な競技なのに女性の王族も参加していたとか。足の先で微妙に進む方向を調節して操りますが、極めて上手な人は、何と、上向きに寝て滑走したと、考えられないような妙技も伝えられています。
ハワイ島ケアウホウのシェラトン コナ リゾートにある、ヘエ ホルアと現存する滑降コースの案内版
ホルアは、硬い二本の木を横木で組み合わせ、その上に縄を張って作られていて、長いものは6メートルもあります。滑走路は、山の急斜面に数百メートルにわたり石を敷き固め、その上に草を置いて滑らかにして作り、良く滑るようにククイの実の油も使います。二人が同時に滑ってスピードを競えるように幅広く作られたものもあり、長いものは1マイル(1.6キロ)にも達し、そのまま止まらずに海に飛び込むように工夫されたコースもありました。そして、ククイの油が太陽の熱で温められて草にしみ込み、更にスピードが増す真昼が、ヘエ ホルアに最も適した時間帯です。
パパ ホルア(ビショップ博物館にて)
今でも、公園の丘の斜面を、子供が段ボール紙に座って滑る姿を目にすることがありますが、ハワイでも一般の人の遊びとして、同じようなものがありました。ハワイ語でキ(kī) と云う、フラのスカートにも使われるティーの葉を二三枚切ってきて、それをお尻の下に敷いて坂を滑りおります、これならそんなに危険ではなかったでしょう。「ホルア キ」(hōlua kī) と呼ばれる遊びです。
さて、ヘエ ホルアには、こんな伝説も伝えられています。この競技が好きで、山の斜面を高速で滑り降りていたのは火山の女神「ペレ」。時には若い男性の王族と競争をし、ペレが負けると悔しがって山を噴火させて溶岩を流し、その男性に仕返しをしたとか。石はハワイ語でポハクと云いますが、溶岩はペレの石=「ポハク ペレ」(pōhaku pele)。真っ赤に染まったドロドロの溶岩が火口から吹き出して勢いよく流れ落ち、森を焼き、人の住む集落をも飲み込む溶岩流の恐ろしさを、ペレの神を崇めつつ伝えてきた、古来の云い伝えの一つです。
ハワイ島のカイルアコナの町から少し南に下ったケアウホウには、溶岩流が作った急斜面に1マイルにも及ぶヘエ ホルアの石組みが残されていて、シェラトンホテルのあたりから遠望出来ます。
ケアウホウに残るヘエ ホルアのコースを示した地図
サーフボードはハワイ語で「パパ ヘエ ナル」(papa heʻe nalu) と云います
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浅沼 正和Masakazu Asanuma担当講師
【インタビュー動画あり】
ハワイ在住通算27年目を迎える。2001年からビショップ博物館で日本語ドーセントのボランティアを始め、2003年に同博物館の会員組織を代表する Bishop Museum Association Council のメンバーに選出され、21年間務めた。他に、ハワイ日米協会理事やハワイ日本文化センターのBoard of Governor 等を務め、日布間の文化交流活動に従事している。海外の訪問国と地域の数は95箇所に及ぶ。