講座詳細
カパ
ポリネシアから伝わったハワイの伝統工芸
- ハワイの伝統工芸、カパの歴史や文化を知りましょう!
カパとは、木の皮を削ぎ、たたき、模様を付け、布のように使用していたポリネシアの伝統工芸です。太平洋の島々である、フィジー、トンガ、タヒチ、サモア、マーケサス、ニウエなどポリネシアの島々で同じように使われていました。ハワイでもヨーロッパ人が太平洋の島々に到来するまでの長い間、カパが作られ使用されていました。一説にはメラネシア、ニューギニアからバヌアツ、クックアイランドからニュージーランドまでと、幅広く数千年もの間、使用されたとされています。イースター島などでは男性が作っていたとされていますが、ポリネシアで主に女性が作っていました。祖母から母へ、母から娘へと、伝統的な作り方は伝えられました。生地が入るようになってからは、一度その伝統工芸は忘れ去られた時期がありましたが、ハワイの人々により、もう一度復興され、現在にいたります。
カパと呼ばれるハワイ伝統の工芸品
主にカパが作られるのは、ワウケ(日本語では桑の木の種類)の木の内側の皮からです。ワウケはパンノキ、サツマイモとともに畑に植えられました。パンノキは実を食べるのが主流ですが、皮も使われたと言われます。ハワイ固有種のママキという木も使われました。 カパを作る知識や技術は、もともとポリネシア人がどこから来たかという説にも準じますが、中国や南アジアからきたのではないかという説もあります。有力な説ではポリネシアのラピタ人が3000年ほど前に、タトゥーなどに使われた模様ラピタ特有の模様が、現在ハワイで見られるカパのデザインにされたのではないかと言われています。 ハワイでは、このカパを生まれたばかりの子供のおくるみ、男性はマロと言われる腰布のようなもの、女性は何層にもなっているパウと言われるスカートのようなもの、 ケープ(キヘイ)は女性も男性にも使いました。またカパを何層にもして使うと暖かくなり、カパ・モエというブランケットのようなものもありました。細長いものは腕や足に巻き、装飾品としても使われたり、また、宗教的なことにも多々使われました。ヘイアウ(古代の祭場)にある一番高いタワー(Anu’u)は神の家とも呼ばれ、ドレープには、白いカパが使われました。また埋葬用に亡くなった人の骨を包む時にも使われました。皮肉にも1989年、マウイ島の有る場所で、ホテルの建設地を掘り起こしていたところ、昔の墓だったかと考えられる場所から1018体もの亡骸が発見されました。その骨を包むカパが全くなかったため、カパ作りのスペシャリストがたくさんの女性達を集め、カパ製作に当たったと言われています。
主にカパの原料となったワウケの葉
主にカパの原料となったワウケの木
2年ほど育てた、長さ6〜10フィート(1.8〜3mほど)で直径が約3cmほどのワウケの茎を使い、周りをのこぎりのような貝殻で表皮を剥きます。その皮の外側の表皮を内側にして巻き、平らにするため数日間置きます。数日後、巻いたものを広げ、外側の表皮を大きめの貝殻でそぎます。そして内側の表皮となった皮をまた巻き、1週間ほど海水に漬け、柔らかくし、樹脂を取り除きます。 そしてその皮をたたく作業に入ります。第一段階目の作業ですが、ハワイは他の国と違い、ほとんどが石で作られたアンヴィルと呼ばれる金床のようなものを使ったと言われています。その石のアンヴィルの上に皮を置き、ホホアと言われる丸みのある木で作られた棒のような木槌(ビーター)でたたたき、長く薄い皮にします。この長くなった薄い皮をモオモオ(Mo’o Mo’o)と呼びます。その後は、太陽の下に置いて漂白させ、また水に浸けたりして、柔らかくしていきます。このときに多少の発酵状態にさせたということです。そして第二段階目の作業に入ります。これには木の金床(クア・ククKua Kuku)の上に置き、四角い木槌(イエ・ククIe Kuku)でたたいていきます。この薄いモオモオはサイズにより、いくつも重ねられ、叩かれ、長いモオモオを作り、生地のようにして使われました。4面あるイエ・ククは1面が荒い溝が入り、あとの2面は少しそれよりも柔らかい溝があり、最後の1面は平らの面です。その荒い溝には、後に幾何学模様なども作られ、濡れている皮に何回も叩くと、その模様が刻まれました。また、男性が付けた模様には、パターンが平行線のようなデザインで刻まれた木の板の上にその全体の皮を乗せて作ったと言われています。作り手が自分の作品をわかるように、特徴のあるデザインを付けた木槌を使ったとも言われています。 模様を付けられたカパは太陽で漂白されたり、夜露に当てられたりと、色々な工夫を凝らし、長い時間をかけて作られました。 木槌の他、サメの歯、竹の棒などもデザイン付けに使われたりしました。
ハワイで使われていたビーター、クク(kuku)。これは4面に模様が入りカパにデザインを付ける木槌
photo provided by Polynesian Barkcloth – photo byRijksmuseum voor Volkenkunde, Leiden
カパには色も付けられました。赤い染料の材料として、ノニやコレアの木、コウやアマウマウの葉があります。また、黄色はオレナ(ウコン)やノニの根、またホレイの根や皮から取れました。ベリーはブルーやピンク。ラベンダーや紫はウニの墨、グリーンはマオの葉。そして黒などはタロイモの泥などから使われたと言われています。ウォーターマークのようにモオモオに付けられたデザインには竹の棒を使いフリーハンドで描かれました。また、ラウハラの実の部分をブラシに使われました。
年代的にも作られたカパには差があります。18世紀頃までのカパは厚く、溝が付き、尖ったような模様が太い線で描かれています。それに比べ19世紀に作られた物は、薄く、より繊細になり、たくさんのデザインが付いています。そして複雑で、精巧な、繰り返し使われたデザインが施されているカパが多くなっています。 また、カパはココナッツオイルやラウアエファーンやマイレの葉の香り、白檀の香りなどを付けられたりしました。 一度は消えかけた伝統工芸のカパですが、1970年以降、ハワイアンルネッサンスの影響もあり、学者、研究者の努力により、ほぼ以前の技術やカパの知識に達し、現在は未来に繋ぐ為、デモンストレーションなどの活動を続けられ、現在に至るようになりました。ハワイやハワイ以外の博物館、美術館、伝統工芸の展示などでは、昔の貴重なカパも展示されています。
キャプテンクック船長のコレクションであると言われる(1787年)貴重なハワイアンカパの写真
photo provided by Alexander Shaw’s book of tapa collected on Captain Cook’s voyage
付帯的な情報・発展情報
参考資料
Kapa Hawaiian Bark Cloth, Boom Books
Polynesian Barkcloth, Simon Kooijman – Shire Ethnography
Pacific Tapa, Roger Neich and Mick Pendergrast – University of Hawaii Press
Kapa, Betty Fullard-Leo
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藤原 小百合 アンAnne Sayuri Fujiwara担当講師
【インタビュー動画あり】
アーミッシュキルトの盛んなアメリカ・オハイオ州の高校に留学中にアメリカン・パッチワークを習得。メリーランド大学学士号取得。その後ハワイに移住し、マウイ島のハナ・マウイ・ホテルで出会ったハワイアンキルトのベッドカバーに一目惚れをし、ハワイアンキルトを始める。2001年9月11日、ニューヨークで起きた同時多発テロ事件の犠牲者とその家族への追悼キルト、『千羽鶴 フレンドシップキルト』を全国のキルターとともに完成させ、2009年9月、9.11メモリアルに寄贈。2011年7月、ハワイで毎年開催される「キルトハワイ」において、オリジナルデザインの「マノアの森」キルトがグランプリ受賞。ハワイ、日本でのレッスンなど、伝統的なハワイアンキルトを広げるため、日々奔走中。15年以上、パシフィックリゾートの「キルトパラダイス」(http://www.holoholo.world/kawaraban/category/quilt/)を連載中。 日本でハワイアンキルト本を数冊出版。2006年よりホノルルフェスティバルにおける伝統的ハワイアンキルト展を毎年開催。2013年よりイオラニ宮殿の日本語ドーセントのボランティアを始め、現在ハワイ在住31年目。