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ウル
ウル
「パンノキ」には大きな黄緑色の実が生ります。
ウルの実
英語でBreadfruit Tree と名付けられたことから、日本語でもこの名になったのでしょう。ハワイ語では「ウル」と云い、カロと同じくネイティヴ・ハワイアンの主食の一つでした。ポリネシア原産のクワ科の樹木で、十五メートル程に成長する大木です。ハワイに育つ木はマルケサスやタヒチのあたりから移住したポリネシア人がカヌーに乗せて運んできた物と思われます。
ビショップ博物館に生えるウルの木
ウルは砂地や火山灰地ではなく、土や赤土で育ち、白い果肉の大きな実が生ります。三千年前頃に西太平洋で栽培されるようになり、現在はポリネシアを含む太平洋各地に育つ木で、マルケサス諸島ではその種類が二百種にも及ぶのだそうです。
イムに使う石
イム(地中に熱い石を敷いて作る料理方法)で蒸して食べます。ポイのように潰してスターチ状にしたり、蒸した後に乾燥させて保存食料としても使われていました。タヒチなどでは木を燃やして、その上で焼いて食べることもあるようです。たんぱく質と鉄分を多く含むポリネシア人にとっての重要な食べ物の一つでした。
蒸したウルの白い果肉の食感は甘みの少ないホクホクのサツマイモに似ています。最近のハワイアン料理のレストランではあまり見かけないかもしれませんが、ハワイの家庭ではパンケーキやチップスの材料としても使われています。薬としての有用性も評価されていて糖尿病や高血圧にも効くと云われています。食用に使われるばかりでなく、家の骨組みやヴァア(カヌー)、工芸品に使われる他、神の木像としても使われる大変有用な木でもありました。
英国軍艦「バウンティー号」の艦長「ウイリアム ブライ」が、1788年にタヒチからカリブ海にパンの木を運ぼうとしましたが、一度は失敗。1792年の二度目の航海で1200本をジャマイカに移植しています。小説になり、映画化もされた「戦艦バウンティー号の氾濫」は、この一回目の航海を題材にした話です。
ビショップ博物館に展示されているクーの木像
パンノキ「ウル」はネイティヴ・ハワイアンにとっての創世記にもあたる「クムリポ」にも出てきますし、神話の中で「クー」の神の「化身」=「キノ ラウ」として人々の飢餓を救った話が語り伝えられています。ビショップ博物館に保存されハワイアン・ホールに展示されているクー神の木像は神話に基づきウルの木の幹から創り出されています。
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浅沼 正和Masakazu Asanuma担当講師
【インタビュー動画あり】
ハワイ在住通算27年目を迎える。2001年からビショップ博物館で日本語ドーセントのボランティアを始め、2003年に同博物館の会員組織を代表する Bishop Museum Association Council のメンバーに選出され、21年間務めた。他に、ハワイ日米協会理事やハワイ日本文化センターのBoard of Governor 等を務め、日布間の文化交流活動に従事している。海外の訪問国と地域の数は95箇所に及ぶ。