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ハワイ音楽の歴史~1970s ギャビー・パヒヌイ
1970年代~サンデー・マノアからギャビー・パヒヌイ
- ハワイ文化復興の時代、1970年代。ピーター・ムーンとカジメロ兄弟のバンド、サンデー・マノアがハワイアン・ミュージック・ルネッサンスの幕を開け、そして時代はギャビーを再発見します。
1971年、歴史的な1枚のアルバムがリリースされました。アルバム・タイトルは『グアヴァ・ジャム (Guave Jam)』、アーティストの名前はサンデー・マノア(Sunday Manoa)。“日曜のマノア”というのどかなイメージのバンド名とは裏腹に、彼らの演奏するハワイアンは斬新で革新的な新たな次元のものでした。
当時のハワイ音楽シーンを振り返ると、ハワイアン・ミュージックは地元ハワイにおいてさえ、メイン・ストリームからすっかり離れた過去の音楽になってしまっていました。地元ラジオでかかる音楽の主流もメインランドのポップス&ロックのヒット曲になっていました。そこへ現れたのがピーター・ムーン、ロバート&ローランド・カジメロの3人からなるサンデー・マノアでした。ロバートの魂を震わす声、力強く繰り広げられるピーターのウクレレによる即興的な演奏、ローランドの洗練されたギター・プレイによって、サンデー・マノアというバンドがハワイアン・ミュージックを新たな次元へと一息に引っ張り上げてしまいます。カラカウア王をたたえるチャントを斬新なアレンジで聴かせる「Kawika」で始まるGuava Jamという1枚のアルバムによって、“ダサくて古いハワイアン”は、“イケてる新しい音楽”に生まれ変り、ハワイの人たちが新しいハワイアン・ミュージックに飛びつきました。地元にこんなにすばらしい音楽があるのだ、ということに気づいた多くのロコによってハワイアン・ミュージック・シーンは一気に活気付けられることになります。
1972年、ハワイアン・ミュージックの歴史に残る名盤「Gabby」というアルバムがリリースされます。ジャケットは渋い中年のセピア色のポートレート、ギャビー・ファンが"ブラウン・アルバム"と呼ぶこのアルバムの顔こそ、当時51歳だったギャビーその人です。伝説的スラック・キー・ギター・プレーヤーで、スチール・ギターの名手、そしてハワイアンの心を歌う類まれなボーカリスト、ギャビー・パヒヌイ抜きでは70年代のハワイアン・ミュージックを語れません。
ハワイアン・ルネッサンスと呼ばれたこの年代のハワイは、アメリカ化の一途をたどるハワイに疑問を抱いたハワイアンたちが自身の文化に目覚め、再発見し、蘇らせる、というプロセスを経て、ネイティブ・ハワイアンの誇りを取り戻そうとした、激動の時代でした。ハワイ語が見直され、伝統のフラ・カヒコが原点回帰の熱い想いを象徴し、ホクレア号のタヒチ航海がハワイアンに誇りを与え、ギャビーの歌声とギターがその時代のテーマ・ミュージックのようになっていきました。
アルバム「Gabby」からスタートしたギャビー・バンドには、彼の息子たち、シリル、ブラ、マーティン、フィリップと、スラック・キー・ギタリストのアタ・アイザックスやサニー・チリングワースなどのミュージシャンが参加していました。さらにピーター・ムーンや、米本土の一流アーティスト、ライ・クーダーまでゲスト参加するというスーパー・バンドを引っさげて、ギャビーは得意のスラック・キー・ギターとスチール・ギターを弾き、歌い、ハワイの人々を魅了します。
オーガニックでフォークなサウンドと、アーシーでアクの強いギャビーのボーカルが生み出すギャビー・バンドの音楽には、泥臭ささえ感じるかもしれません。しかしよく聴くと楽曲アレンジがとてもモダンであることがわかってきます。ハワイの古い民謡を演奏しているのに、アレンジやギター演奏が当時のロック・サウンドを巧妙に取り入れた革新的なものなのです。泥臭さと洗練さが絶妙に同居していたところが、ギャビー・バンド・サウンドの魅力だったのかもしれません。
70年代の間、ギャビーは4枚のオリジナル・アルバムを次々にリリースして、ハワイ音楽の歴史に輝かしい足跡を残します。サンデー・マノアは数枚のアルバム・リリースのあとピーター・ムーンとブラザーズ・カジメロに分裂 その後もそれぞれすばらしい作品を発表しつづけます。ハワイ島からはフイ・オハナというバンドが現れ、ほこりをかぶって忘れ去られたトラディショナルなハワイアン・ソングを若々しいアレンジで蘇らせます。質の高いオリジナルのポップス&ロック・ミュージックを聴かせるC&Kやカラパナが現れ、ハワイ中の若者を虜にします。ケオラ&カポノ・ビーマーが「ホノルル・シティー・ライツ」を発表し、若きイズラエル・カマカヴィヴォオレがマカハ・サンズ・オブ・ニイハウとともにデビューします。数多くのすばらしいミュージシャンたちが出現したこの時代は、もっとも影響力を持ったカリスマ・ミュージシャン、ギャビー・パヒヌイの死(1980年)によって幕を閉じます。
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よしみ Nui だいすけDaisuke Yoshimi担当講師
【インタビュー動画あり】 1967年2月9日生まれ、神奈川県横須賀出身。1991 年よりハワイ在住。ハワイ大学卒業。フラ、ハワイ音楽に傾倒するハワイ・スペシャリストとして、ハワイを拠点に執筆・コーディネート活動を行う。ハワイのクムフラやミュージシャンとの親交も幅広い。フラダンサーとして、メリー・モナーク、キング・カメハメハの大会出場経験あり。著書に『たくさんのメレから集めた言葉たち』シリーズ、『LIVE ALOHA~アロハに生きるハワイアンの教え』がある。近年、フラダンサーを対象とした日本での講演・セミナー活動に力を入れている。
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