講座詳細
有害動物
6~7世紀頃に最初の人間がハワイ諸島を訪れて以来、少しずつ独自の自然生態は破壊されてきました。さらに19世紀以降は西欧をはじめとする諸外国から多くの人たちが移住し、ほぼ全島で農地開発や都市化が進んだ結果、多くの在来の動植物は大きなインパクトを受けました。このことに加え、人間が持ち込んださまざまな動植物が在来の動物を絶滅の危機に追いやったり、絶滅させたりしました。
哺乳類
小さな土地であっても外敵の存在しなかったハワイの自然は、在来の動植物にとってパラダイスでした。しかし人間によって持ちこまれたさまざまな動植物によって生態系は大きく変貌しました。
最初の侵入者は、6世紀頃から13世紀頃にかけて、ポリネシアから持ち込まれたブタやイヌ、ニワトリでした。記録として定かではありませんが、おそらくはネズミもカヌーに侵入してハワイにたどりついたことでしょう。これらが小さな島の集まりであるハワイで少しずつ本来の自然環境を破壊しはじめました。
在来の野鳥を駆逐したのは、繁殖力が強かったり広い縄張りを持つ外来の鳥でした。ネズミ退治に導入されたマングースはネネ(ハワイガン)の卵を食べ尽くし、飼育していた1グループを残して絶滅してしまいました。ハワイの伝統社会では、権力者のマントやヘルメットに特定の鳥の羽毛が用いられました。その結果、対象となった鳥のほとんどが絶滅しています。また、イヌやネコも野鳥を補食します。カウアイ島のアラカイ湿原に設置された木道を通って侵出する四つ足動物たちは、湿原だったおかげで護られていた脆弱な自然を徐々に破壊しはじめています。
先住のハワイ人が連れてきた野ブタは今日でも深刻な被害をハワイ固有の動植物に与えています。環境保護団体や研究機関は駆逐を望んでいますが、伝統生活を重んじるハワイ人はそれを拒んでいます。その一方で、主に西欧人たちが趣味としての狩猟目的で持ちこんだヤギやシカは野ブタ以上に深刻な被害をハワイの自然に与えており、ハワイの動植物にとってはこの先も深刻な状況が続きそうです。
野生化したブタ
昆虫類・は虫類
ハワイには固有のチョウやショウジョウバエなど5000種もの昆虫類がいます。しかし、多くの外来動植物が侵入した結果、これらはいずれも生息数を減らしたり、絶滅の危機に陥っています。かつてはペットだったジャクソンカメレオンは完全に野生化し、在来のトンボ(ピナオ)などを補食します。
高所にのみ生育するギンケンソウは一時壊滅状態にまで追い詰められました。これはかつて人々が面白半分に蹴り転がしたことや、後に西欧人が導入したヤギによる食害があります。また船に紛れ込んで侵入したアリも甚大な被害を及ぼしました。なかでもアルゼンチンアリは、ギンケンソウの受粉を助けるハチの一種を捕食するため、自然保護にたずさわる人々はヤギだけでなく、地面の下に潜むアリの害にも注意を払わなければなりませんでした。
急速に分布域を広げるジャクソンカメレオン
魚類・陸貝類
魚類にも深刻な影響が出ています。海は外洋と繋がっているため、固有種という区分けはありませんが、河川にはわずかながらオオプ(ハゼの一種)など淡水に生息する固有種がいます。しかし、釣魚として放たれたティラピアやブラックバスなど多くの外来種のせいで、これらの在来種はきわめて限られたエリアにしか生息していません。
カマロニと呼ばれるカタツムリは美しい紋様が特徴的ですが、生育環境の減少に加え、アフリカマイマイという外来のカタツムリに捕食され続けた結果、今日では絶滅寸前となっています。
以上の他にも、ドバトや、カノコバト、チョウショウバトなどのハト類をはじめ、カバイロハッカ、ゴキブリ、蚊、ノミ、シラミ、シロアリ、ヤモリ、トカゲ、アノールトカゲ、ブラックバス、ブルーギル、ニジマス、ナマズ類などの外来魚もハワイの自然に大きな影響を与えています。
在来のカタツムリを駆逐しつつあるアフリカマイマイ
※トップ画像は、広範囲に土壌を荒らすヤギ。繁殖力の強い外来種のひとつです。
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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