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ロノの神話「ロノとマカヒキ祭り」「ロノが癒しの神になったわけ」」
豊穣や癒しを司る神ロノの神話とは?
- ロノは雨や豊穣、癒しなどを司る四大神の一人
- 10月または11月から始まる古代のマカヒキ祭りはロノを祀ったもの
- マカヒキの最中にハワイ島に到着したイギリスのクック船長はロノの再来と勘違いされた
ロノとマカヒキ祭り
四大神の一人であるロノは、雨や豊穣、平和、愛、癒しなどを司る神。古代ハワイでは毎年10月または11月から4ヶ月間、ロノを祀るマカヒキという祭りが催され、人々はゲームやスポーツに興じて平和な時間を楽しみました。この時期ばかりは庶民も、重労働や日々の生活の大きな部分を占めていた宗教儀式からも開放され、のんびりと過ごしたそうです。
ロノ神の象徴だったカパ布の白旗。写真はオアフ島クアロアでのマカヒキ祭りのもの
このマカヒキの祭りが始まった経緯として、以下のような神話が伝わっています。
天上に住んでいたロノはある時、ハワイ島ワイピオ渓谷に住む美女カイキラニに目を止め、妻にすることにしました。ロノは虹を伝って地上に降り立つとカイキラニを娶り、2人はケアラケクアで幸せに暮らし始めました。
ところがちょっとした誤解から妻の浮気を疑ったロノは、妻を打ち殺してしまいます。死の間際の妻の言葉で、それが誤解だったことを悟ったロノ。悲しみに打ちひしがれ、妻を記念してマカヒキの祭りを創設し、そのまま「いつか自分はハワイに戻ってくる」という言葉を残してカヌーでハワイを去って行ってしまいました。
…実は上記の神話は、イギリスのクック船長のハワイ島来訪に大きな関わりがあります。1778年に初めてハワイ島を訪れた際、ロノ神の再来と誤解され、大歓迎されたクック船長。クック船長の乗った船が、たまたまロノの住んでいたとされるケアラケクア湾に到着したこと。しかもそれがマカヒキ祭りの最中だったこと。また船のマストが、ロノの象徴である白い旗に酷似していたことなど、様々な偶然が重なった結果でした。
しかしケアラケクア湾を出航したクック船長の一行が、損傷した船の修理のため再び戻って来ると、ハワイアンの態度は一変します。「神の船が壊れるわけがない」とクックがロノ神ではないことを悟ったハワイアン。ある出来事をきっかけにクックを殺害するという、苦い結末を迎えたのでした。
ロノが人間の妻と暮らしたというハワイ島ケアラケクア。この湾の対岸でクック船長が殺害された
ロノが癒しの神になったわけ
ロノがまだ人間の酋長として暮らしていた、昔々。ロノの住むハワイ島の村を、癒しの神カマカが通りかかりました。その時たまたま、ロノは足に大けがを負っていました。
ロノを診察し、様々な薬草を駆使してけがを治療してくれたカマカに、大きな感銘を受けたロノ。カマカに「村の統治はほかの者に任せてきました。あなたの弟子にしてください」と懇願しました。
カマカはロノの願いを受け入れ、ロノの口を開けさせると、そっとツバを吐きつけました。ツバとともにカマカの治癒力の一部がロノに移り、さらに一緒に旅しながら、ロノはあらゆる癒しの技術をカマカから学んだのでした。
しばらくしてから2人は別れ、ロノは一人でワイピオ渓谷に到着。当時、ワイピオ渓谷の酋長ミルは次から次に新たな病いにかかり、弱りきっていました。実はある神が、密かにミルに呪いをかけていたのです。そんなミルの身体を調べたロノは、断言しました。
「おまえは病気ではない。私の言うとおりにすればすぐに回復するだろう」
そしてミルに「ティーリーフで家を造り、中でジッとしていなさい。外が騒がしくても出て行ってはいけない、覗いてもいけない。その約束を破ればお前は死ぬことになる」と告げたのです。
しばらくはロノの言いつけを守っていたミルですが、2日後、鳥の美しい歌声に誘われ、ついティーリーフの家から出てしまいました。と、とたんに鳥がミルに襲いかかり、瞬く間にミルは瀕死状態に。鳥の囀りは、ミルを誘き出す罠だったのです。
しかしロノは何とかミルを蘇生し、「近いうちにまた危険が迫る。決してティーリーフの家から出てはいけないぞ」と厳命。それにもかかわらず、近くの浜に大波が押し寄せた数日後。波の音を聞いてサーフィンをしたくなったミルは、ロノの言いつけを破ってまたも家を飛び出してしまったのです。ミルはサーフボードを抱えて大波の立つ海に飛び込み、大波に揉まれて死んでしまいました。
こうして、ロノの言い付けを破って命を落としたミルは冥界の王となり、永遠に霊達に囲まれて暮らすことになりました。
一方、ロノはそのままワイピオ渓谷にとどまり、癒しを司る全カフナ(専門家、祈祷師)の祖となり、やがて癒しの神として崇められるようになった…ということです。
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex