90年代前半のハワイアン音楽

　80年代のハワイ音楽シーンは、70年代の揺り戻しなのか全体的な趣向はレゲエへと傾いていました。90年代に入ると、そんなハワイの音楽シーンに再び変化が起こり始めました。ハワイの人々の目が自分たちの生活するこの土地固有の文化に改めて向けられていくようでした。

　ウクレレ、ハワイ語、フラ、カマアイナ精神、そういったものが見直される流れは実は決して偶発的なことではありませんでした。1993年は、ハワイ王朝転覆100周年という年でした。ハワイアンの民族意識の高まりが再燃し始めていたのです。その年の１月１７日の記念式典を前後してハワイ先住民系とその周辺で盛り上がる「ハワイアン・プライド」の機運が、新しいハワイアン・ミュージックの時代を後押ししていたのです。

　個人的なことですが、ハワイ生活を始めた91年当時、リアル･タイムのハワイアン･ミュージックというものがどういうものか、筆者にはまったく予備知識がありませんでした。しかし、もともと日本のＦＭラジオ業界で仕事をしていた大の音楽好き、まだ未知の世界であったハワイの音楽シーンというものに興味津々でした。ローカルＦＭステーションを聴いていると、やがてわかってきました。ここハワイでは、アメリカ本土のトップ４０は当然のこととして、そのほかにレゲエ・ミュージックが好んで聴かれていること。さらに地元ミュージシャンによるローカルの音楽シーンがあって、彼らの音楽がアメリカ本土のヒットチャート曲やレゲエ・ソングと合わせてラジオから流れてくるのです。ローカルの音楽だけを流し続けるステーションもちょうどそのころホノルルで開局となって人気を集め始めていました。ラジオから流れてくるハワイのローカル・ミュージックを熱心に聴く筆者の耳に、いくつかのお気に入りの曲やアーティスト名が残るようになった頃、現れたのです。ハワイアンミュージックの虜にさせるアーティストが・・・。

90年代前半のこの１枚！

「ＨＡＰＡ」
　1992年、ハワイアン･ミュージック史に残るすばらしいアルバムがハワイでリリースされました。「HAPA」です。
ハワイ伝統のギター奏法、スラック・キー・ギター・スタイルを取り入れた天才ギタリスト、ニュージャージー州出身のバリー・フラナガン、そしてすばらしい歌唱力と心の奥を揺さぶるような声を持った生粋のハワイアン・ロコ・ボーイ、ケリイ・カネアリイによるユニット「HAPA」。本土出身の白人とハワイ系ロコボーイ、二人の才能が起こす化学反応によって生まれたこのアルバムは、当時のハワイで大変な話題となりました。ラジオから聞こえてくる彼らの「カ・ウルヴェヒ・オ・ケ・カイ」「クウレイ・アヴァプヒ」は、原曲の古さをまったく感じさせない、新しい命を吹き込まれたかのようなすばらしい曲として生まれ変わっていました。ハワイの人々はそんなHAPAの新しいサウンドに酔いしれました。「レイ・ピカケ」や「ハレアカラ・クー・ハノハノ」といったハワイ語によるオリジナル・ソングは、ハワイアン・ミュージックに興味のない人々の心もわしづかみにする力を持っているようでした。ハワイ語の意味がわからない者も、その美しい響きに魅せられました。HAPAの音楽には、ハワイの言葉、ハワイ特有の文化と自然に、人々の目を向けさせる魔法が秘められているようでした。ハワイのフラダンサーたちはこぞってHAPAの曲をレパートリーに取り入れ踊るようになりました。

　マウイ島を拠点にライブ活動をしていた二人が、10年の歳月をかけて生み出したデビューアルバム「HAPA」は、空前の大ヒットとなりました。ハワイ音楽史上最も売れたCDの一つとして今後も語り継がれるであろうこのCDの歌詞カードには、英語でこんな一文が添えられていました。
「このアルバムの利益の一部は、マウイにあるハワイ語教育の幼稚園、プーナナ・レオ・オ・マウイに寄付されます。この特殊学校は、ハワイの島々の美しい言葉と文化が、子供たちの心と頭に生き続けることを願って運営されています。」

同時代に活躍したアーティスト

• テレサ・ブライト
• イズラエル・カマカヴィヴォオレ
• ホオケナ
• ウィリーＫ
• ハワイアン・スタイル・バンド
• クウイポ・クムカヒ
• カアウ・クレーター・ボーイズ