ハワイアン・ミュージックをリードする国際的アーティスト１　ケアリイ・レイシェル

　1990年代以降、ハワイアン・ミュージック・シーンをリアルタイムで体験してきた筆者が「現代のハワイ音楽」を代表するアーティストを選ぶとしたら、迷うことなくこちらの二人です。ひとりはイズラエル・カマカヴィヴォオレ、そしてもうひとりはケアリイ・レイシェル。

　まずは「フラダンサーのための音楽」という視点から。1991年以降フラダンサーによってもっとも愛され踊られる歌を世に送り出してきたのがケアリイ・レイシェルです。ハワイアン・ミュージックをテーマにまとめられた本『The 50 Greatest Hawai'i Album』の中には、1950年代から2000年代の半世紀の間にハワイで生まれた音楽のなかでもっとも優れたアルバム50枚が紹介されています。時代を90年代以降にしぼると10枚のアルバムがランクインしています。その中でトップの位置（第5位）に選ばれているのがケアリイ・レイシェルのデビュー作「カワイプナヘレ」（1994年）です。

　デビュー作「カワイプナヘレ」で1995年のハワイ音楽賞ナ・ホク・ハノハノ最優秀ハワイアン・アルバム賞、新人賞、最優秀男性ボーカル賞、最優秀アルバム賞など全5部門を制覇して、ハワイアン・ミュージック界に文字通り旋風を巻き起こしたケアリイ。シンプルながら美しいメロディとサウンドにのせた詩情あふれるハワイ語詞のオリジナル・ソングの数々、そして何よりも優しい風のような歌声とハワイ語の発音の美しさ、それらがあいまったケアリイのハワイアン・ミュージックにハワイの人々は酔いしれたのでした。ハワイ中のＦＭラジオ局がケアリイの音楽を流し、フラ・コミュニティーはこぞって彼の曲をレパートリーに加えるようになりました。フラのバックグラウンドを持つ、ハワイアン・カルチャーを背負ったシンガーだったことが、彼の人気を支えるように作用したようです。ケアリイの音楽は、それまでハワイアン・ミュージックやフラ・ソングというものに親しんでいなかった層のハワイのオーディエンスをも一気に惹きつける力を持っていたのです。

　フラというアートが生きた文化・芸術として生き続けるためには、古くからの歌や踊りを継承すると同時に、同時代性のある新たな歌とフラが生まれ続けなければなりません。そのために多くのミュージシャンが、ソングライターが、クムフラが、新たな歌を探し生み出す努力をしています。ケアリイはデビューアルバム以降、すべてのアルバムでこれを成功させてきました。クムフラ＆シンガーとして彼を超えるアーティストは未だ現れてはいません。

　デビュー・アルバム「カワイプナヘレ」（1994）から「レイ・ハリア」（1996）「エ・オー・マイ」（1997）「メレラナ」（1999）「ケアラオカマイレ」（2003）まで、ケアリイは10年間で5枚のオリジナル・アルバムを発表しました。それらはすべて大ヒットを記録し、ケアリイはハワイを代表するトップ・アーティストとして不動の存在となりましたが、2006年のクリスマス・アルバム「マルヒア」のリリースを最後に新作のリリースが途絶えます。ただし、その間アーティストとしての活動を縮小して彼は別のことに挑んでいました。クムフラとして自身のハーラウをフラ競技会の最高峰メリー・モナークに出場させるという挑戦です。2009年から3年連続でメリー・モナークに出場したケアリイと彼のハーラウ「ケアラオカマイレ」は、2009年にソロ部門「ミスアロハフラ」優勝、2010年に女性団体部門優勝、そして2011年に総合優勝を果たすという大活躍でハワイのフラ界でもトップの座を獲得したのでした。その後、レコーディング・アーティストとしてのブランクを破って「カワイオカレナ」（2014）をリリース、約10年ぶりのオリジナル・アルバムでナ・ホク・ハノハノ2015では７部門受賞という快挙を成し遂げました。

　ハワイはもちろん米本土や日本での人気も確実なものにして名実ともにビッグスターになった後も、フラ＆ハワイ文化継承の担い手という立場を守り続けるケアリイ・レイシェル。フラダンサーのための音楽を最高のクオリティーで生み出し、フラのための音楽マーケットとフラ＆ハワイ文化への理解を押し広げたハワイアン・シンガーとして、彼の名前は歴史に残ることでしょう。