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パパハーナウモクアーケア
パパハーナウモクアーケア
パパハーナウモクアーケアという少し長い名前は、2006年に北西ハワイ諸島が海洋国家記念物に指定された翌年に付けられたハワイ名です。周辺の海洋を含むこの地域は、2010年にはユネスコにより世界遺産に指定されました。パパハーナウモクアーケアの範囲は2016年8月に拡張され、今日では世界で2番目に広い自然保護地域です。
パパハーナウモクアーケアは、ハワイの伝統文化とハワイ諸島の地理的な関係に深く結びついた言葉です。「パパハーナウモク」あるいは「パパ」とは「大地を司る母なる神」あるいは「地球」を指します。また、「ハーナウ」は「誕生」、「モク」は「小さな島々や大きな島の特定地域」という意味もあります。「アーケア」は「広大さ」を意味しますが、「アーケア」には「ワーケア」という言葉が含まれており、「天空を司る父なる神」の意味もあります。つまり、母なるパパと、父なるワーケアから誕生した島々という意味が含まれます。これらの意味をひとつにした「パパハーナウモクアーケア」には、「創造と誕生、ハワイ諸島のすべての土地」という意味が込められています。
ハワイ王国には王から王へと引き継がれてきたクムリポというハワイ創世史のチャント(詠唱)があります。このなかに、パパとワーケアによって島々が誕生したことが記されています。それゆえ、先住のハワイ人にとり、パパハーナウモクアーケアは聖地とされました。すべての生命が生まれ、人々は死ぬと精霊となってこの地に戻ると信じられたのです。また、この地は先祖の精霊だけでなく、神々が住む場所でもありました。
パパハーナウモクアーケア世界遺産 (Picture by Wikipedia)
地理・地質
北西ハワイ諸島は太平洋のほぼ中央に位置します。主要ハワイ諸島の延長上の、北西から南東にかけて伸びる島々で、総延長は約1,900km。ちなみに、ミッドウェー島から東京まではおよそ倍にあたる4,000kmの距離があります。
諸島はいずれも、現在のハワイ島南東部の地底にあるマグマ溜まりが造り出したもので、太平洋プレートの移動によって、今日の位置にあります。もっとも古いクレ環礁やミッドウェー島の地質年代(海上に出現してから今日に至る年数)はおよそ2,800万年です。北西ハワイ諸島の先には天皇海山列がカムチャツカ半島に向かって海底に点在します。
北西ハワイ諸島は地質年代がもっとも新しいニホア島でも750万年です。主要ハワイ諸島よりも多くの浸食を受けてきたせいで大きな島はなく高山もありません。最大の島であるミッドウェー島の6.4km2、最高峰はニホア島の275mにすぎません。
ミッドウェー環礁 (Picture by Google)
北西ハワイ諸島は東から西へ、次の順で並びます。(カッコ内はハワイ名です。)
ニホア島(モクマナ)※マナが込められた島 /0.7km2
ネッカー島(モクマナマナ)※島々に分散したマナ /0.2km2
フレンチフリゲート瀬(モクパーパパ)※パパパ(魚の一種)の生息する島、平らな島 /0.2km2
ガードナー尖礁(プーハーホヌ)※ウミガメが顔を出す島 /0.02km2
マロ礁(ナルカーカラ)※寄せる大波 / 満潮時に水没
レイサン島(カウオー)※レイサン・フィンチという鳥の卵 /4.1km2
リシアンスキー島(パパアーポホ)※中心が陥没したような平らな島 /1.5km2
パールアンドハームズ礁(ホロイカウアウア)※荒波を泳ぐハワイモンクアザラシ /0.3km2
ミッドウェー環礁(ピヘマヌ)※やかましい鳥の鳴き声 /6.4km2
クレ環礁(カーネミロハイ)※北西海岸の見張りをした神で、火の女神ペレの兄弟 /1.0km2
ミッドウェーに生息するコアホウドリ (Picture by US Fish and Wildlife Service)
歴史
北西ハワイ諸島に住人がいたという伝承はありません。ニホア島とネッカー島には遺跡が残ることから、かつては生活拠点があった可能性はありますが、漁民の番屋のようなものにすぎなかったかもしれません。当時の人々がタヒチやマルケサス諸島から訪れた人たちであったか否かはもちろん、ポリネシア人であったかということも判明しておらず、この地域の古代史は謎に包まれています。19世紀後半から20世紀初頭にかけては、肥料となるグアノ(鳥の糞)の採集や、海鳥の捕獲などが行われました。
ミッドウェー環礁は19世紀中葉にアメリカ合衆国に編入され、1903年にセオドア・ルーズベルト大統領が野鳥の保護地区に制定しました。太平洋戦争ではこの環礁を巡って日本軍との戦いもありました。1996年に軍事基地を解体後、2013年まで魚類野生生物局が常駐していましたが、現在は無人島です。2006年にジョージ・ブッシュ大統領が北西ハワイ諸島をアメリカ最初の海洋国定記念区域として制定し、2010年にはユネスコの世界遺産に登録されました。
ミッドウェー島には数十万羽を数えるコアホウドリが生息するほか、クロアシアホウドリや各種のアジサシも多数生息します。また、パパハーナウモクアーケア(北西ハワイ諸島)全域には各種のウミガメや海生哺乳類、魚類など数千に及ぶ陸上と海洋生物が生息します。2016年にはバラク・オバマ大統領によって海域を含む150万平方キロメートルに保護区域が拡大されました。現在、北西ハワイ諸島は海洋大気局と魚類野生生物局、及びハワイ州政府によって管理され、関係者以外の訪問を厳しく制限されています。
※トップ画像はレイサン島とオアフ島を往来するコアホウドリ(モーリー)です。
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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