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マイレ
マイレ
ハワイの伝統文化にとり、マイレは数あるハワイの植物のなかでも特別の存在です。マイレは人と人とを結びつけるだけでなく、人と神を結ぶ象徴でもあるからです。
マイレはつる性の低木で、ハワイ各地の森で見られます。つる性ですから、他の木に絡みついて立ち上がりますが、周囲に対象となる木がないときはある程度自立します。海岸近くから標高2000m近くまでの乾燥した土地、 あるいは適度な湿り気のある土地まで、広範囲に分布します。しかし、生育環境は年々悪化しており、絶滅が危惧される地域も少なくありません。
マイレの花の大きさはわずか 0.4~0.6cmほど。近づかないと花弁の形もわからないほどです。色は淡緑色または淡黄色で、花が終わると黄緑色の実をつけ、完熟すると暗緑色になります。花よりずっと大きく、1.5cmほどのサイズになります。
葉は輪生と言って茎を取り囲むように放射状につきます。2枚から4枚の葉を(輪生で)つけるという解説が多いですが、3枚1組のケースが多いようです。葉は滑らかで光沢があり、裏側は細かな毛(繊毛)が生えているため、少し白っぽく見えます。
マイレの花は小さく葉も大きな特徴がありませんから、森のなかでは目立ちません。しかし、葉と茎を潰したり剥いたりすると出る白い樹液にはバニラのような芳香があり、ハワイでは古来から重要な儀式の際や、大切な人に捧げるレイの素材として、ツルのついたマイレの葉を用いました。とくにカウアイ島のマイレには大きく育つものがあります。香りも強く、表皮を剥がなくても強い香りを放ちます。この香りはツルが枯死しても数年は保たれるほどです。
森のなかではあまり目立たないマイレの茂み
神話と伝統文化
レイはハワイの文化に欠かせませんが、大型のスーパーや百貨店、花屋などで購入できるレイの素材は、ほとんどが外来種です。マイレは、そのなかでわずかな在来の植物のひとつとして今日まで広く愛されてきました。
ハワイの結婚式では、夫婦の絆を未来永劫に守ることを天に向かって契る象徴としてマイレのレイを用います。結婚式や妊婦への贈呈の場合、マイレ・レイは輪にせず、下端を開いた状態にします。
マイレの樹液はワウケ(カジノキ)で作ったカパ(樹皮から作られた布)などの香りづけとして用いられました。マイレのほかにもモキハナ(ミカン科の植物)やラウアエ(シダの一種)、イリアヒ(ビャクダン)、カマニ(テリハボク)などが香りづけとして用いられましたが、マイレの香りはとくに多くの人々に重視されました。また、ラーアウ・ラパアウ(医療行為)においても重要で、かつては潰瘍、火傷、切り傷などの治療に用いられました。
カウアイ島でフラを学ぶ人々は、神に捧げる植物を祭壇に供えました。マイレもそのひとつで、マイレという名の4姉妹(マイレ・ハ・イ・ワレ、マイレ・カルヘア、マイレ・ラウリ・イ、マイレ・パーカハ)に捧げられました。また、フラの女神であり、森の女神でもあるラカは、意のままにマイレを動かすことができたと言われます。
米粒を一回り大きくしたほどの花
植物知識
樹液の正体はアルカロイドという物質で、マイレが属するキョウチクトウの仲間(プルメリアなど)には必ずあります。一般にこれらの樹液は毒性があります。マイレはそれほど強い毒性はないものの、目や口に入らぬよう注意は必要です。
マイレは学名を Alyxia oliviformis と言います。「オリヴィフォルミス」という単語には「オリーブに似た」という意味があるのですが、これはマイレの果実がオリーブに似ていることと、葉がオリーブのように鎖状に繋がることに由来しています。マイレは、ハワイ諸島のカホオラヴェ島とニイハウ島を除く島々に、人が訪れる前からあった固有の植物のひとつです。
※トップの画像は若い実をつけたマイレの葉です。
完熟したマイレの実
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近藤 純夫Sumio Kondo担当講師
エッセイスト、翻訳家、写真家。ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。ハワイ州観光局アロハプログラム・キュレーター。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』『新ハワイアンガーデン』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『フラの本』(講談社)、『Dear Maui マウイを巡る12の物語』(共著/ Little Gift Books)、訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)など。
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