伝統を伝える現代フラ界の第一人者、フランク・ヒューエット氏が語るフラのルーツ

• フラのルーツ諸説
• フラが迫害された時代

ハワイでフラ・ダンサーが踊る姿を見たことがあるでしょうか。彼女たちは色鮮やかなドレスに身を包んで、優しい微笑をたたえながら、流れるような動作で踊ります。観る者を幸せな気持ちにしてくれるHULAという踊りは、じつはハワイの人々によって何百年もの間受け継がれてきた歴史ある伝統的な踊りです。 近頃は、観る者だけでなく、踊る者も幸せな気持ちにしてくれることに、ハワイの外の人たちも気付きはじめたため、フラを楽しむ人の数は世界的に増加しています。この伝統文化のルーツと歴史を知るために、フラを伝える伝道者クムフラの第一人者、フランク・ヒューエット氏に語っていただきました。

「フラの始まりについてはいくつかの言い伝えがあります。まずよく言われるのが、最初にフラを踊ったのは男だという説です。古代のハワイはアリイ（首長階級）とカフナ（神官）によって支配されていて、ヘイアウ（神殿）での儀式は彼らが崇拝する神とコミュニケーションをとるためにとても重要なことでした。ヘイアウ（神殿）での儀式ではフラ・パフが踊られました。太鼓のビートに合わせて踊るフラの原点です。パフ（ドラム）はヘイアウでの儀式で使用する神聖な楽器、そして神殿での宗教的儀式に参加できたのが男性だけだったことを考えれば、フラは男性の踊りだった、という説はつじつまが合います。 ハワイの火の女神ペレを原点とする説も伝えられています。女神たちを主人公にしたハワイ神話の物語が伝えるところによれば、ペレの妹ヒイアカがホーポエというハワイ島キラウエア火山近くのレフアの森の女神から教わったダンスがフラの原型で、ペレがこの踊りを大変気に入ったことから広まっていったというものです。ペレとヒイアカの神話を伝える古い詠唱（チャント）にそのことが歌われています。この説は前出のものと違って、フラが宗教や儀式、階級といった要素から切り離され、大地の自然と女性（女神）と結びついている点が興味深いところです。

カウアイにはペレとフラの関係を象徴するような遺跡的ヘイアウが存在します。ケエ・ビーチを見下ろす崖の上に今もひっそりとあるそのヘイアウは、ペレとヒイアカの神話の中に登場し、そこで初めてフラが踊られたことを伝えています。
モロカイ島にもフラのルーツを伝える場所があります。カアナという場所で、呪術を使う女神カポーと、森の女神ラカのストーリーが、この場所をフラの原点として伝えています。ラカはフラの守護神とも言われます。 少なくともこれだけの説が、フラのルーツを語るために伝えられています。」

案内人クムフラ、カワイカプオカラニ・ヒューエット

フラが乗り越えた消滅の危機
神話とともに伝えられたフラは、何世紀もの間、各地の族長の保護のもと踊られていました。ところが、18世紀になると、ハワイが西洋文明に“発見”されるという出来事と、島々の統治が統一されハワイ国家が誕生するという歴史的な大事件が起こり、フラを取り巻く様子が様変わりします。ハワイの島々に海の向こうから西洋人がやってくるようになると、主に宣教師によってフラは迫害され始めたのです。キリスト教を布教するために、"野蛮"な古代ハワイの信仰とフラは邪魔物でしかなかったわけです。世界の各地で植民地を広げる西洋人が行ったのと同じことが、ハワイでも行われたのです。

「彼らは私たちにキリスト教の神を信じることを押し付けようと、彼らにとって異教徒の踊りだったフラを止めさせようとしたのです。自分たちの土地で、自分たちの国で、自分たちの文化と習慣を生きるという、当たり前のことができなくなってしまったのです。そんな時代をくぐりぬけて、私たちは今もフラを踊り続けているのです。」急速に西洋化しはじめた19世紀のハワイで、フラは消滅の危機に瀕していました。そこに救世主のごとく現われたのがカラカウア王でした。国王としての立場をフルに利用し、フラやハワイ語、ハワイの神話伝承の大切さ、ハワイアンであることの誇りを人々の心に蘇らせた彼は、今もハワイアン・フラダンサーのシンボル的存在です。