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2018.05.31

ハワイ王国紋章

ここがポイント

紋章がハワイの過去を物語る
・ハワイ王国の紋章はカメハメハ3世時代に作られた
・王族の象徴やハワイ王国のモットーなどが盛りこまれている
・現在のハワイ州の紋章は王国の紋章&ハワイ共和国の紋章を下地にしたもの

王国時代の紋章には意外な過去が秘められている

色鮮やかなハワイ王国の紋章を見たことがありますか? ホノルル・ダウンタウンのイオラニ宮殿やヌウアヌの丘にある王家の霊廟(ロイヤル・モザリアム)など、今だ各所に残る王国の紋章は、カメハメハ3世時代の1846年に作られたもの。カメハメハ3世の言葉や王族、王冠なども描かれ、大変ユニークなデザインが印象的です。いわばハワイの過去が秘められた紋章ともいえ、ハワイ文化を学ぶ私達にとっても一見の価値があるといえるでしょう。以下、詳しく説明していきます。

紋章をデザインしたのは、王族の一員でカメハメハ3世の秘書を務めていたティモシー・ハアリリオ。まず目につく2人の人物はカメハメハ大王の双子の叔父、カメエイアモク(向かって右側)とカマナワです。2人は大王の補佐役だった高貴な王族で、王族だけが着用できた羽毛のマントとヘルメットを身にまとっています(そもそも紋章全体が、広げられた羽毛のマントの上に描かれています)。そして2人が手にしているのは、槍とカヒリ。カヒリとは羽毛の飾りが付いたスティックで、かつて王族の象徴の一つであり、王族の行く先々で掲げられていました。
 


ホノルル・ダウンタウンのイオラニ宮殿の門に飾られているハワイ王国の紋章


2人の間にある王冠の下も、ハワイならではの印で溢れています。ハワイ王国の国旗(現ハワイ州旗)の一部があしらわれており、その8本のストライプは主要8島を表したもの。一方、白い丸が付いたスティックは、プウロウロウと呼ばれます。これも王族の権威の象徴で、昔のハワイでは王族の住居前などに掲げられていました。さらに枠の中央には、王族の乗るカヌーの旗印と槍が組み合わされています。

双子の王族の足元に書かれたハワイ語のフレーズ、UA MAU KE EA O KA AINA I KA PONOにも、実に興味深い史実が残されています。UA MAU KE EA O KA AINA I KA PONOは「土地の統治権は正義によって護られる」という意味になり、ハワイ王国のモットーでした。モットーの生まれた背景として、以下のような物語が知られています。

カメハメハ3世の治世だった1843年のこと。ハワイが不当にイギリスに支配された時期がありました。幸いなことに5ヶ月後、ビクトリア女王が派遣した海軍司令官の裁定によってハワイは主権を回復。王国は喜びに沸き、その祝賀式典での3世によるスピーチ中の言葉、「土地の統治権は正義によって護られる」が、そのまま王国のモットーになったのでした。
 


ホノルル・ヌウアヌの王家の霊廟の門に飾られている紋章


王国の紋章とハワイ州の紋章の関係は?

以上のように、いかにもハワイ感溢れる王国の紋章なのですが、1893年に革命によって王国が倒れると、今度はデザインを一部変更してハワイ共和国の紋章として使われることに。二つの紋章を見比べるとわかるように、オリジナル紋章の双子の王族がカメハメハ大王と自由の女神になり、王冠は朝日に。星や不死鳥フェニックスもあしらわれるなど、ごくアメリカ的なアレンジが施されています。

ちなみに朝日や不死鳥は、ハワイが王国から共和国となり、新たな時代を迎えたことの象徴だそう。…それでも「土地の統治権は正義によって護られる」との王国時代のモットーが、共和国の紋章にそのまま残っているのには、やや違和感がありますね。王国が白人勢力による革命によって倒れたことを考えると、ある意味、皮肉でもあります。


ハワイ州の紋章。ハワイ共和国時代に一部変更された王国時代の紋章をほぼ踏襲している
 

この共和国の紋章はその後、上部に記されている政府の名称(ハワイ共和国→準州→州)、その政府が成立した年代の表記を変えながら各政府で使われ、今ではハワイ州の紋章に。つまりハワイ王国と現在のハワイ州の紋章は、似てはいても、深く意味を見ていけば全くの別物というわけです。

ハワイ王国時代のオリジナル紋章は、ダウンタウンのイオラニ宮殿や王族も通った宮殿近くのカワイアハオ教会など、王族ゆかりの史跡で見ることができます。ぜひ紋章を通じて、ハワイの過去を感じてみてください。

  • 森出 じゅん
    Jun Moride
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
    森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex

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