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2018.10.02

オハナの精神

古代ハワイの生活基盤だったオハナとは?


血縁と強い絆で結ばれていた生活ユニット

オハナ’Ohanaというハワイ語は、今やアロハやマハロに次いで、日本でもお馴染みの言葉となりました。2002年のディズニー映画「リロ&スティッチ」内の、「オハナとは家族、家族とは、誰も置き去りになったり忘れられたりしないこと」の台詞で、世界的に広まった感があります。


この台詞にあるようにオハナは狭義では確かに家族を意味しますが、本来の意味はさらに広く深いもの。核家族とは正反対、ですが単なる大家族でもありません。オハナは家族の規模を表す言葉ではなく、古代ハワイの生活単位であり、基盤ともいえる概念。血縁でつながる生活共同体、運命共同体=オハナと考えると、わかりやすいでしょう。

Photo Courtesy of Hawaii State Archives


古代ハワイでは、一族が集まって暮らす習慣がありました。たとえばクプナ(年長者)Aと子供や孫、さらにAの兄弟であるクプナBやC、D、Eの子や孫など、複数の家族が同じ敷地内で暮らし、共同生活を維持。ともに畑を作り採れた作物は分け合い、病人が出ればその人の仕事は他者がカバーしと、オハナは生活ユニットとして機能していました。

ハワイ文化の研究者、故メリー・カヴェナ・プクイによれば、「オハナを構成するのは、一つのタロイモから出る芽のように同じ根から派生した人達」。オハナ内で甥や姪は我が子同然、従兄弟は兄弟同然と、強固な絆が築かれていたのです。


複数のクプナを頂点に頂く共同生活体

オハナの敷地内にはそれぞれの家屋に加え、男性、女性それぞれの食事処、作業場など、共同のスペースが設けられていました。そしてクプナの集団がオハナを治め、規則を設けるのもクプナ。また揉め事があれば、ホオポノポノで問題を解決しました(ハワイ伝統の集団セラピー、ホオポノポノは元々、家族内の問題解決のための手段でした)。ホオポノポノを司るのも、もちろんクプナの役割でした。


男性の食事処ハレ・ムアの再現(ポリネシア・カルチャーセンターの展示より)


このようにオハナ内において重要な役割を担い、地位もきわめて高かったクプナ達。昔は初孫を祖父母が引き取る慣習もありました。ハナイという養子制度で、それは初孫が女の子なら母方の祖父母が、男の子なら父方の祖父母の養子になるというもの。古代ハワイでは確立した習慣であり、親が第一子を手放すのを拒否する権利は、ほぼありませんでした。


こうして考えてみると、オハナ制度からはクプナへの敬意やホオポノポノ、ハナイなど、古代ハワイできわめて大切だった概念や慣習がいくつも派生しています。さらにはハワイの美徳であるアロハスピリットも、オハナ制度をベースに生まれたと見る人も。確かにお互い助け合い、愛し合い、分かち合おうというアロハの心には、オハナの精神が反映されていると言えそうです。


Photo Courtesy of Hawaii State Archives


現代社会でいっそう発展したオハナの精神

今のハワイではかなり核家族も増え、一族が同じ敷地内で暮らすという習慣はほぼ過去のものに。しかしハワイにはまだ、オハナの精神がしっかりと根を張っています。他の土地に比べて格段に2世代、3世代家族が多く、ハワイでは2世代住宅をオハナハウジング(オハナ住宅)と呼んだりも。またオハナユニットとは、離れを意味します。

しかも家族の結び付きは依然、強固なハワイ。子供の1歳の誕生日に始まって感謝祭、クリスマス、卒業式など、ことあるごとに親戚が集合する印象があります。これは単にアメリカ人のパーティ文化を超え、オハナ制度の名残りといえるでしょう。

さらには現代ハワイでは古来のオハナの精神が発展し、血族に限らず職場や学校、地域社会といった集団をオハナと呼ぶ新たなオハナの概念も広まっています。血がつながっていなくともお互いに助け合い信頼し、家族のような絆を持とうというのが、現代版のオハナの精神。

その背景には、移民の多いハワイで、見知らぬ者同志が助け合ってきた歴史もまた、反映されているのではないでしょうか。


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  • 森出 じゅん
    Jun Moride
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
    森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex

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