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2019.05.14

ピジン イングリッシュ

ピジン イングリッシュ

Pidgin English

ダ カイン イングリッシュ  Da kine English

「ピジョン」イングリッシュと誤解して覚えている人が居るかもしれませんが、「ピジン」が正しい言い方です。
ピジン イングリッシュは、中国沿岸地域等で、交易のために必要な意思疎通に使われた、英語と現地の言葉が混合したものを指しますが、ハワイでは、英語も全く解さないまま砂糖農園に入植した移民の人達が使った言葉(英語)を云い、ハワイ プランテーション ピジンとの言い方も聞かれます。島や耕地によっても、それぞれ違った表現がありました。

砂糖耕地の図(カウアイ島コロア ヒストリー センターの展示物より)

ハワイの一般庶民(ローカル)の人達が話している英語の中に、「ダ カイン」と云う音を聞くことがあるでしょう。ダは the もしくは that 、カインは kind のこと。
「そうそう!! それ、それ!!」などの意味合いで「ダ カイン ヤ!!」などと云いますが、このような英語を聞くと、ハワイに居るのだナ、と実感出来ます。
日本から移民、移住した1世や、その子供達である2世の間でも、独特の単語、言い回し、発音、抑揚や文法が生まれ、その一部が今でもハワイに住む人々の間に残り、ハワイらしさを醸し出しています。
英語の中に、ハワイ語や日本語、ポルトガル語、フィリピンの言語などの単語が含まれます。日本語と云っても広島弁など、特に移民を多く送り出した県や地域のお国言葉が混ざっています。

英語やアルファベットも全く知らずにハワイの砂糖プランテーションに入植した場面を想像してみましょう。監督 ( luna ) の指示で作業にあたるにも、農園の住居地(キャンプ)の購買店で生活必需品を買うにも、そこで聞き覚えた言葉を理解し、それで意図を伝えていく必要がありましたし、他の国や地域からの移民とも話さなければなりません。そこに、共通語が生まれていきました。

砂糖耕地で働く日系女性(ビショップ博物館で、以前展示に使われていた人形)

単語の例を探せば枚挙にいとまがないのですが、砂糖耕地で使われたものだけを少し拾ってみると、
バンゴ: number のこと。砂糖農園では各地から入植した働き手を、給料支払いから、経費の差し引きまで、全て人名ではなく、数字(番号)で管理していました。

ハナワイもしくはハナヴァイ: ハナは、仕事を意味するハワイ語の hana 。ワイ ( wai ) は水。砂糖キビを植えた後に水をやる仕事のこと。

ハッパイ コー: 砂糖キビを抱えて運ぶこと。ハッパイは、ハワイ語で、抱えるとか妊娠を意味する hāpai 。コーはハワイ語の砂糖キビ kō 。

ヒッパリ メン: 変わった言い方ですが、力の強い若者で、農地での作業を急がせるリーダー的役割を担い、多めの給金をもらった人達を指します。一般の労働者からは嫌がられる存在でもあったようです。

ホーハナ: ホーは、英語の hoe =鍬。ハナは、仕事を意味するハワイ語の hana 。鍬を使って整地したり雑草を取り除く作業のこと。

カチケン: 英語の cut cane 。砂糖キビを刈ること。

番号札の例(ビショップ博物館で、移民の展示を開催していた際の展示物より)

ホレホレ節を聞いたことがあるでしょう。砂糖耕地で歌われた作業歌で、広島の作業歌が基になっていると云われていますが、歌詞にピジンが巧みに使われています。因みにホレはハワイ語の hole 、葉をむしり取ることを云います。

ホレホレ節の歌詞の一例。実際にはいくつもの違う歌詞がある。(ビショップ博物館での、以前の展示物より)

未来を表す英語の助動詞 will と同じ役割で「ゴン」が良く使われました。英語の going が基になっているのでしょう。「アイ ゴン バイ ~~」 は、I will buy ( so and so ) の意味。
過去形は省略されることが多いのですが、「ウェン」や「ビン」が使われることもしばしば。
「アイ ウェン ゴー」は「行った」の意味になります。go の過去形 went から、ビンは be 動詞の過去分詞形 been から使われていたのでしょう。
否定形の not は使われず、動詞や助動詞の前に no を付けます。「どうしようもないネ!」は No can help, yah ! 、「久しぶり!」は Long time no see, yah ! と云う具合です。

1970年代、私は既にホノルルに住んでいたのですが、日系人が多く集まる各宗派のお寺で、盆ダンスばかりでなく、浄財を集めるためのバザーや民謡の演奏会などが盛んに開かれていました。
そこで良く耳にした言葉に「チョーチ」がありました。お寺のことで、教会=church が、そう聞こえたのでしょう。演奏会などのポスターには、入場券をカタカナで「テケツ―」と書いてありました。チケットのことです。
「ダンブロ」とか「ダンビロ」は、ハワイ語のマカイ ( ma kai ) と同じく、海に向かって下の方角を示します。英語の down below です。「ダンブロのネーバーハウスのギョールは、モモナじゃけんの~」とは、「下の隣の家の女の子は太っている~~」になります。momona はハワイ語で、ふくよか、や、甘い、を意味します。

現在も盛んに使われているピジンの単語もほんの少しだけ紹介すると、「ハオレ」haole は欧米人のこと。「パウ」はハワイ語の pau 終わる、終り、で、パウハナは仕事が終わることを意味しますが、夕食前の早めの一杯、パッピーアワーを、パウハナ ドリンクなどと云うのを聞いたことがあるでしょう。

最近でも、ローカル(ピジンの発音ではロコルとかロコとか聞こえる)の人の間で、広島弁で「腹を立てる」を意味する「はぶてる」が、そのままピジン イングリッシュとして、会話の中で使われていて、habuteru とか habut と云います。

ところで、「ピジン」の語源ですが、諸説あるものの、ビジネス ( Business ) を中国の人が発音したのが、そう聞こえたからだ、と云う説が良く聞かれます。

蛇足ですが、「カウカウ」は「食べる」を意味するハワイ語だと云われることがありますが、ハワイ語ではなく、中国語から転訛したピジンだと云うのが正解のようです。

 

この章のポイント

  • 私は言語の研究者ではありません。永年ハワイで生活している間に日系人のお年寄りから聞いた言葉や、専門家の話を聞いたものを、少し紹介したにすぎません。皆さんもピジン イングリッシュを耳にすることで、ハワイらしさをより深く味わってみて下さい。 Good, yah ! !

 

付帯的な情報・発展情報

最近、ホノルルの主要な本屋で “ Da Jesus Book “ と云う本を見かけます。実はこれ、ハワイのピジン イングリッシュで書かれた新約聖書です。
例えば「ローマ人への手紙」は “ Da letta from Paul fo da Rome peopo “ 「ダ レッタ フロム ポール フォ ダ ローム ピーポ」。
初版は2000年に出版されていますが最近増版されており、ピジンに興味のある人には実に面白い本です。

Da Jesus Book (Wycliffe bible Translators 2000)

  • 浅沼 正和
    Masakazu Asanuma
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    ハワイ在住通算27年目を迎える。2001年からビショップ博物館で日本語ドーセントのボランティアを始め、2003年に同博物館の会員組織を代表する Bishop Museum Association Council のメンバーに選出され、21年間務めた。他に、ハワイ日米協会理事やハワイ日本文化センターのBoard of Governor 等を務め、日布間の文化交流活動に従事している。海外の訪問国と地域の数は95箇所に及ぶ。

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