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2020.12.11

ハワイ語の名前

ハワイ語にはマナ(神秘的な力)が宿る、あるいは言霊であるという事に触れてきましたが、その力を一番象徴しているのは名前ではないかと思います。

現在でもハワイ語の苗字そして名前を持つハワイアン。生まれてくる子供にもハワイ語の名前をつけることが多いですが、どのようにして名付けられ、名前というものが彼らにとってどういう意味を持っているのかについてお話ししたいと思います。

 

古代ハワイからの名前の捉え方

1820年東海岸からの宣教師のハワイ来島以前のハワイでは苗字と名前という形での名前を持っていなかったようです。

古代ハワイのシンプルな暮らしの中ではポイパウンダーであったり、編まれたマット、カヌーメイカーが使う石斧、フィッシャーマンが使う釣り針、身につけるマロ(ふんどし)、戦士が使う槍などはとても大切なもので個人的な珍重されるものでした。そしてそれらのものよりもさらに大切にされた個人所有のものが名前だったのです。

名前自体には財産とある種の力が備わっていたと考えられていました。名前は目に見えず、形はない、でもリアルな存在が宿っているものと考えられます。そして名前はその所有者に助けになるような、或いは傷つけるような神秘的なエレメントを引き起こす原因を作る物でもあるのです。なので名前は呼ばれるほどにその力を増し、その力によって潜在的な恩恵を及ぼしたり、或いは害したりするものと信じられてきました。

人の発するある種の言葉には、ある結果を導くような力があったということで、これは「呪い」のような物へとも繋がっていくのです。

子供の名付け方

家族に子供が生まれると、家族の話し合いの元にその子の名前はとても慎重に注意深く選ばれました。通常は家族の守り神とされるʻaumakua(アウマクア)の神秘的なアドバイスにより、その名前の含意と、いくつかのメソッドに準じて決定されました。

それらのメソッドは以下の通りです;

 

inoa pō (イノア ポー) 夜(闇)の名前

inoa hōʻailona (イノア ホーッアイロナ) 兆候の名前

inoa ʻūlāleo (イノア ウーラーレオ) 聞こえた名前

inoa hoʻomanao (イノア ホッオマナオ) 人や出来事を記念した名前

inoa kupuna (イノア クプナ) 先祖から受け継ぐ名前

inoa kūamuamu (イノア クーアムアム) 悪意(侮辱)のある名前

 

リストの上から順に神やアウマクアとの関係性が強い名前と言えます。

また時にはこれらのリストの複合した名前もあるわけです。たとえは出来事を記念してつけられた名前が先祖から受け継がれた場合などがそれに当たります。

Inoa pō(イノア ポー)「夜の名前」「闇の名前」

これは通常家族についている守り神アウマクアによって選ばれた名前と言われています。

子供の誕生に先立ち、家族の誰かが夢の中で名前を示されたり、或いはその名前を告げられたりした物です。

Inoa hōʻailona (イノア ホーッアイロナ)「兆候(ビジョン)の名前」

これは家族の誰かがビジョンとして見えたもの、或いは神秘的な兆候が雲の中に見えたり、鳥が飛ぶ様子、或いはその他の現象が明確にその名前を示したもの。

 

Inoa ʻūlāleo (イノア ウーラーレオ)「声の名前」

これは家族の誰かが名前そのものを告げる声を聞いたり、メッセージを受け取った場合。

 

このように見たり、聞こえたり、夢見たりした名前はアウマクアからのギフトであり命令でもあるわけで、そのような名前は子供に与えなくてはならない名前と思われてきました。それはアウマクアによって授けられた名前は、神とその人との関係性を示すものだからなのです。

関係性を示すといってもその神の名前が直接入っている必要はないけれど、その名前によってハワイアンはどの神と関係があるかを理解していたのです。例えば名前の中にあるフレーズで「山の住人」とか「大地を貪り食うもの」などが出てくるとペレに関係しているんだとわかるようにです。

 

神から啓示された名前を使わなかった場合

それではこのように与えられた名前をつけなかった場合にはどんなことが起きたのでしょうか。家族に示された啓示に従わずその名前をつけることを拒否した場合には、生まれてきた子供の体が不自由であったり時には死に至ることがあったと言います。まず子供の体が不自由な場合は神からの警告で、注意しないと死に至ると考えられていました。この信念(信仰)は宣教師たちがハワイに来てからも続けられた習慣です。

 

昔ハワイ島で一人の女の赤ちゃんが誕生しました。まもなくしてそのおばさんにイノア ポーが授けられました。しかし彼女は敬虔なクリスチャンになったので、その神から与えられた神聖な名前を隠し、子供に与えなかったのです。

その後その赤ちゃんは病気になり、家族が集まりホオポノポノ(家族会議)が開かれ、そこで彼女にイノア ポーが与えられた事実が明かされました。家族はすぐにアウマクアの気分を害したことが子供の病気の原因であるということに合意し、直ちに供物とご馳走を用意し、たくさんの祈りが捧げられ、古い名前を断ち切り、その子供にはイノア ポーが与えられました。

Kawena-ʻula-o-kalani-a-Hiʻiaka-i-ka-poli-o-Peke-ka-wahine-ʻai-honua

カヴェナ ウラ オ カラニ ア ヒイアカ イ カ ポリ オ ペレ カ ワヒネ アイ ホヌア

「大地を消費するペレの懐に抱かれたヒイアカによって作られた空のバラ色の輝き」

と名付けられ、病気は回復し元気に育ったのだそうです。

ハワイ語辞書をはじめとし数々の文献を残したメリー・カヴェナ・プクイ女史の本当にあったお話だそうです。

 

一度イノア ポーが与えられると、その名前は個人の独占所持物となり、そしてそのオリジナルの名前を持つ人の許可なく使うことは、なんびとたりとも許されないのだそうです。もしそうしたなら病気や不運が待っていると信じられていました。

プクイ女史曰く「名前にはカプ(タブー)が備わっている」ということ、そしてそのカプの効力は夢で見ても、兆候でも、或いは神聖なる声を聞いても同じように存在するのだそうです。

 

Inoa kupuna (イノア クプナ)「先祖の名前」

家族の誰かがその子孫に名前を譲り渡すと、その名前はイノア クプナとなります。

時にはその名前のオリジナルはイノア ポーかもしれないし、神秘的な兆候からの名前かもしれないし、何かを記念してつけられた名前かもしれません。或いはシンプルに造語としてできた名前かもしれません。

大切なのはその名前の所有者が、その名前にカプ(タブー)がついているか、それによって有害な影響がないかどうかを確かにしておかなくてはなりません。

ハワイのように古い系図を重んじる文化においては当たり前なことかもしれませんが、先祖代々名前の歴史を語り継ぐ事は、家族に病気や災い、不運なことが起きない為にも必要なことだったのです。

 

Inoa hoʻomanao (イノア ホッオマナオ)「思い出の名前」

書き言葉を持たない社会の民族にとって、歴史というものは人々の記憶と声を表したものです。古代ハワイではそれらは長いオリ(詠唱)としてその偉大な出来事が語られてきたのですが、それを言葉で速記したように表したのがこのイノア ホッオマナオと言えるでしょう。

名前の所有者はその名前とともに、記念すべき出来事を語り継いていくというわけです。

そのほかにも日常の小さな出来事なども必要に応じて名前に託され、家族の中ではその出来事が忘れられないように守られてきたのです。

時には病弱だったり体のどこかに不調がある子供は Maka-piapa(マカーピアパ)「ベタつく目」とか Kūkae(クーカエ)「排泄物」などという名前をつけられる事もありました。これは体の弱い子供には何かネガティブなものが宿っているとされ、このような汚い意味の名前をつける事で、そのようなネガティブを追い出すような意味があったそうです。子供には理解できる時期になったらその意味がきちんと告げられて、そのような名前を恥じることはなかったですし、或いはある年齢に達して問題がなくなるとそれまでの名前は断ち切られ、新しい名前がつけられたりしたそうです。

 

Inoa kūamuamu (イノア クーアムアム) 「悪意(侮辱)のある名前」

直訳すると恐ろしい名前に思えますが、これはアリイや家族間の間でのトラブルなどで、相手の失礼な言動などに対して、その出来事を名前にして子供を呼ぶことで、相手の無礼を辱めるというような意味合いです。

これもある種の「思い出の名前」のようなものですが、ネガティブな意味合いでということになります。

このようにハワイ文化の中には名前に対する深い意味合いや、文化的な背景が色濃く残されていることがお分りいただけたかと思います。

まず全ては神ありきで、神との繋がりを重んじること。そして次に祖先たちを敬うこと。そして言葉が持つマナ(霊的パワー)を熟知し、そして正しく使うことが基本になっているのではないでしょうか。

日本でも子供が生まれると親をはじめとする家族は、その子供の健康や幸せを願って、或いは〇〇のような人になって欲しいという願いを込めて、名前が付けられると思います。そして同じ音でも、違った意味を持つ漢字を選び、その文字の中にはたくさんの想いが詰まっていると思います。

日本語であってもハワイ語であっても、言葉の中にあるマナと呼ばれるエネルギーが私たちの日々の生活に密接に関わっていることが理解できます。

 

最近では日本でもたくさんのフラスクールができたり、或いはハワイ関係のビジネスが増えたりしていますが、そこでは「名前」或いは「屋号」がつけられるわけですが、ハワイの人たちがどのように名前をつけているかということを知ることは、名前に対する敬意と感謝の気持ちが増してくるのではないでしょうか。そして正しく名前をつける事で、人の健康や運気までもが守られるということを心に留めておきたいものですね。

  • ミイラニ・ヨシコ・クーパー
    Mi'ilani Yoshiko Cooper
    担当講師

    Kahaluʻu在住
    Halau Kīhene Pua Uluwehi (ハラウ キーヘネプアウルヴェヒ オアフ島/神奈川)主宰、クムフラ
    Lamakū Hawaiian Study Education (ラマクーハワイアンスタディーエジュケーション)主宰
    アロハフロウファウンダー
    プランツメディスンメイカー
     

    ハワイ大学ヒロ校ハワイ学科卒業 ハワイアンイマージョンスクールNāwahīokalaniōpuʻu(ナーヴァヒーオカラニオープウ)で教鞭を執る
    ハワイ大学マノア校言語学修士
    2006年正統な伝統儀式のもとクムフラの称号を与えられる
    フラヘブン(雑誌)に2年半連載ページを執筆
    個人、企業向けの様々なハワイ文化講座を指導
    現在ビショップ博物館Lā Kūleʻaプログラムのフラクラスを担当
    アンティ マイキのフラを継承するクムフラ、メイ カママル クラインの元、指導者としてフラを学び2006年8月にウニキを経てクムフラの称号を与えられる
    ジョニー ラム ホー、レイ フォンセカの元よりメリーモナーク フラ フェスティバルに出場経験多数
    カジメロブラザースやハパなど有名ミュージシャンのコンサートの出演経験多数
    また、ダンサーとしての体作りの必要性からヨガを始め、ハワイの文化とヨガを融合させた Alohaflowを独自で考案
    ハワイの価値観をもとにHoʻoponopono的なライフスタイリングや自然と調和できるサステイナブルなライフスタイルを目指している

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