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アヴァの伝統
古代、王族から庶民までがアヴァを愛した。神々の好物ともされ、アヴァにまつわる神話は多々。宗教儀式に欠かせなかったほか、薬草としての役割も大きかった。
アヴァの伝統
王族から庶民までがアヴァを愛飲
アヴァ(Awa)はコショウ科の植物。ハワイ以外の島々ではカヴァ(Kava)、またはカヴァカヴァ(Kava Kava)との名で知られます。その根を粉末状に砕いて水に溶かし、ろ過して作る飲物には、アルコール分はないものの鎮静効果があり、飲むと酩酊状態に似た状態に。そのため、古来、ハワイをはじめポリネシア各島には、酒代わりにアヴァを飲む習慣がありました。
アヴァは決して王族限定の嗜好品ではなく、庶民もまた、1日の重労働の後で身体の痛みや疲れを取り、熟睡するために愛飲したそうです。英語でアヴァ茶といわれることがありますが、アルコール分はなくとも、アヴァ酒と呼んだ方がしっくりくるかもしれません。
アヴァ=ハワイの御神酒?
アヴァは古代ハワイで、宗教の上でも重要なものでした。むしろ宗教上の役割が一番、大きかったといえます。戦勝祈願のような大がかりな儀式はもちろん、フラダンサーの入門式、子供の成長を祝う儀式など、あらゆる神事にアヴァが不可欠だったのです。ヘイアウ(神殿)や祭壇に、ポイやバナナなどの供物とともにアヴァが捧げられ、時にはアヴァの根そのものが供えられることも。アヴァは神々の好物で、神々を大いに喜ばせると信じられていたからです。
神々がどれほどアヴァを好んだか示すものとして、四大神のカネとカナロアにまつわる神話があります。神々のなかでも、2人はアヴァが大好物。2人が各島でアヴァの根を探しだし楽しむ物語が、各地で知られています。アヴァを飲むには水が必要なので、2人は行く先々で地面を叩いて水源を見つけるというのが各物話に共通の結末。アヴァを飲むために神々が掘り当てたという泉が、各地に残っています。ハワイの神々にとってアヴァは、ギリシャの神々にとってのネクターのような存在だったといえるでしょう。
〔アヴァは伝統的にヤシの実の器で供された〕
またアヴァの起源についても、さまざまな神話があります。ある神話はカネとカナロアがアヴァをハワイにもたらしたとし、ほかの物語では人間の男がカヒキ(タヒチに限らず、海の彼方を意味します)からもたらし、最初はカウアイ島に植えられたと語っています。ある時、その男の妻がアヴァを捨て、それがワイアレアレ山で繁殖。その結果、アヴァがほかの島々に広がったとか。アヴァにまつわる数々の神話が、ハワイにおけるアヴァの重要性を物語っているといえるでしょう。
医療のうえでも珍重
アヴァは古代のハワイで、医療の分野でも不可欠でした。そこには複数の理由があり、まずアヴァの薬草としての役割が1つ。アヴァは古来、リュウマチや喘息、泌尿器系の治療薬として珍重されていました。さらには、癒しの儀式全般にアヴァが不可欠だったという事実があります。神の怒りが病いをもたらすと信じられていた昔のハワイでは、治療はまず神への祈りから始まり、神の怒りを鎮めるためにもアヴァが必ず神に捧げられたのです。
〔Photo Courtesy of Hawaii Tourism Authority(HTA)/Heather Goodman/@hbgoodie〕
また癒しを司るカフナが病いについての神託を得るためにも、アヴァが使われたとの記録があります。これは医術を司るカフナに限りませんが、カフナがトランス状態となって神と交信するために、アヴァが使われていたとか。つまりアヴァは古代のさまざまな場面で神との繋がりを求めて使われていた、神聖な植物だったというわけです。
現代社会におけるアヴァ
以上のように、古代ハワイでは神々、そして王族から庶民にまで愛飲されていたアヴァ。その伝統は現代に受け継がれ、今もアヴァの飲めるバー(アヴァバー、もしくはカヴァバーと呼ばれます)があるほか、ハワイ料理と一緒にアヴァを出す店も存在します。
〔ハワイ島カラパナのナイトマーケットに出店していたアヴァバー〕
アヴァはアルコールのように悪酔いしたり中毒になったりすることがないので、愛用者は、アルコールの代用品として飲むことが多いようです。ただしアルコール分がないといっても、アヴァの飲みすぎは禁物。2000年代の話ですが、カリフォルニア州でアヴァを20杯以上飲んだ人が交通事故を起こし、飲酒運転で起訴されるという一件がありました。
また2011年にも、カリフォルニアで同様の事件が発生しています。カリフォルニアにはポリネシア出身の人が多く、ほかにも数件のアヴァ絡みの事故があったことがわかっています。この点、古代の生活にはあり得なかった、現代版アヴァの問題点といえるかもしれません。
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森出 じゅんJun Moride担当講師
【インタビュー動画あり】
オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex