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言霊が宿るハワイ語
日本で「言霊」とは言葉に宿ると信じられた霊的な力の事。声に出した言葉が、現実の事柄に何らかの影響を与えると信じられており、良い言葉を発すれば良い事が起こり、不吉な言葉を発すれば凶事が起こると考えられていました。
これらは日本だけに見られる事ではなく、世界の様々な文化の中に根付いていいる考え方で、ハワイの文化にも同じような事が見られます。
I ka ʻōlelo no ke ola, 言葉の中に生命があり
I ka ʻōlelo no ka make 言葉の中に死がある
ハワイの諺に「言葉は癒すこともできるが、言葉で死に至らせることもできる」という意味合いのものがあります。
これはまさに言葉には言霊が存在し、使い方次第で良いことも悪いことも起きうるというという事を戒めています。
Mana(マナ)の宿る言葉
ハワイでは言霊をマナという言葉で表現しています。マナとは霊的な力であり、生命力であると考えられています。ハワイでは万物にマナが宿るという考え方なので、人にも土地にも物にもこれらのパワーが宿っているのです。
そしてもちろん言葉にもマナが宿っていると信じられています。
宣教師たちがハワイにやって来るまでハワイ語に書き言葉がなく、それまで独自に筆記方法が見出されなかった理由の一つには、このような理由も起因していたかも知れません。
古代ハワイでは黒魔術的な呪術ができるカフナがおり、物を使って儀式をしたので、チーフたちの爪や髪の毛、排泄物、そして死後の骨なども隠す習慣がありました。これは他の権力者に呪われて力を奪われたり、殺されたりしないためだったのです。同様に考えると、マナの詰まった言葉を書き記すことで、その物が悪用されたり、パワーを奪われたりしないようにという理由があったかどうかは定かではありませんが、それくらい言葉はパワフルであったということです。
Inoa(イノア)名前
私たちに一番密接な言葉の一つが名前ではないでしょうか?
日本でも名前というのは親や家族が子供に託す願いや希望を込めたり、あるいは生まれた時の何かのイベントを覚えておくために名前に託されたりします。
私の名前は私の将来が安泰であるようにと願いを込め、姓名判断で字画や言葉の意味を見ていただいてつけてもらったと聞いています。また同学年には東京オリンピックが開催された年生まれということもあり、名前に「聖」の字が付いている友人がいたりもしました。
ハワイでも同じように名前には深く隠された意味があったりします。そこにはとても大切な情報が隠されていたり、個人の本質や運命までもが秘められていたりします。名前をつける時には、言葉の意味がとても重要で、その選択肢は様々でした。選択肢というと少々意味合いが違ってしまうので、様々な方法で与えられた名前といったほうが良いかも知れません。
名前についてはいずれ別途にお話ししたいと思いますので、ここでは割愛しますが、名前を構成する言葉それぞれにパワーがあるので、言霊の集まりだと思っていただいて良いと思います。
オリ(詠唱)やメレ(詩)に込められた言葉
名前よりもさらにたくさんの言葉が集められたのがオリやメレではないでしょうか。
古代の神々を語り伝えるためであったり、歴史的な出来事であったり、自然現象であったり、人々の日常であったり様々な事が歌に託され、フラとして踊られて長い時を経て今日まで大切に伝えられたものも沢山あります。
フラが言葉なくして存在しないのは、言葉のエネルギーを体を使って表現するというものだからではないでしょうか? つまりは言葉が主役であるという事です。
特にフラノホ(座位のフラ)は顕著で、楽器を使いリズムを奏でながらストーリーを語る事がメインになっています。体の動きはあくまでも補助的なもので、チャンティングの技法を使って言葉をさらにパワフルにしたものが表現されるわけです。
打楽器から発せられる音の持つ波動に、生命を持つ人の声から発せられる波動が重なり合い、そこに言葉そのものが持つエネルギーの波動が乗る事でとてもパワフルなエネルギーになるのがフラなのかなと思います。その波動によって人と人であったり、人と自然界であったり、また人と神々の世界、または霊的な世界と繋がるのかも知れません。
可愛い赤ちゃんには「アグリー」と言う
私がハワイに来て間も無くハワイ大学で学んでいる時、ハワイ学科の友人が可愛い赤ちゃんに
Pupuka(ププカ)!といっていたので驚いた事があります。Pupuka(ププカ)とは「醜い」と言う意味なのですが、何で可愛い赤ちゃんにそんなことを言うのだろうと思いました。
そこで知ったのは、この可愛い赤ちゃんに嫉妬などの災いが及ばないために、あえて「醜いね~」と言うのだそうです。また「可愛い赤ちゃん!」ということでその子を欲しいと言っているように思われるのだそうです。ハワイでは人の嫉妬はマイナスのエネルギーの中でもかなり強力だと言われていて、人からの妬みや嫉みで病気になったり、果ては命まで奪われてしまうこともあるのだと信じられています。
また名前でもその部分だけ直訳するとあまり好ましくないような意味の言葉が使われている事があります。例えば皆様もご存知のリリウオカラニ女王は名前の一部にKamakaʻeha(カマカエハ)「痛む目」と言う言葉がありますが、生まれた時に目の病気があった彼女にあえてこの名前をつけたのは、この病の元となる霊を居心地悪くして追い出すためなのだとか。
このようにあえて反対の意味合いを使って災いを回避すると言うような使い方もされていたのです。
言葉が持っている層
ハワイ語の言葉の多くはたくさんの層を持っています。簡単に言うと同じ言葉に色々な意味があると言う事でもあるし、または意味としては一つでもベールに潜んだような隠された層があったりします。
時にはそれらをKaona(カオナ)「隠された意味」と呼びます。
一番わかりやすい例を挙げると「死」を表す言葉Make(マケ)はあまり口から音を発して言葉にしたくない言葉なので、この言葉の代わりに使われるのがHala(ハラ)「過ぎ去る」と言う意味を持つ言葉です。なのでハラという言葉を聞いた時、何かが過ぎ去ったという意味もあれば、何かを終了した(卒業など)という意味もありますが、言葉の前後から誰かが亡くなったという場合もあるわけで、このような言葉に隠された意味が含まれることをKaonaと呼ぶのです。
ハワイの歌などではよく使われることで、表面的な意味合いはとても綺麗な場所を歌った歌でも、Kaonaを理解するととてもセクシャルな意味があったり、あとは不倫などのゴシップを歌っていたりなど、ハワイアンの匠な言葉の使い方には驚くばかりです。
言葉とは私たち人間の生命体を通して、呼吸とともに発せられる音で成り立っています。ですから言葉の持つ意味と、それを発する人のエネルギーは深く絡み合っていくということです。
まさに最初にご紹介したハワイの諺のように、言葉が癒しにもなり死に至らしめることもあるというくらい、パワーを持っているということ。
つまりは私たちが口から発する言葉は、清らかでポジティブなものでありたいということではないでしょうか。それは自分が発した言葉は自分に返ってくるということでもあり、美しい言葉を選び使うことで、周りの環境や人間関係、果ては自分の健康にも影響を及ぼすのだということを忘れないようにしたいものです。
日本語であってもハワイ語であっても、魂の宿った言葉を使ってコミュニケーションができる私たち。言葉の魂を大切に使えるよう心がけたいですね。
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ミイラニ・ヨシコ・クーパーMi'ilani Yoshiko Cooper担当講師
Kahaluʻu在住
Halau Kīhene Pua Uluwehi (ハラウ キーヘネプアウルヴェヒ オアフ島/神奈川)主宰、クムフラ
Lamakū Hawaiian Study Education (ラマクーハワイアンスタディーエジュケーション)主宰
アロハフロウファウンダー
プランツメディスンメイカー
ハワイ大学ヒロ校ハワイ学科卒業 ハワイアンイマージョンスクールNāwahīokalaniōpuʻu(ナーヴァヒーオカラニオープウ)で教鞭を執る
ハワイ大学マノア校言語学修士
2006年正統な伝統儀式のもとクムフラの称号を与えられる
フラヘブン(雑誌)に2年半連載ページを執筆
個人、企業向けの様々なハワイ文化講座を指導
現在ビショップ博物館Lā Kūleʻaプログラムのフラクラスを担当
アンティ マイキのフラを継承するクムフラ、メイ カママル クラインの元、指導者としてフラを学び2006年8月にウニキを経てクムフラの称号を与えられる
ジョニー ラム ホー、レイ フォンセカの元よりメリーモナーク フラ フェスティバルに出場経験多数
カジメロブラザースやハパなど有名ミュージシャンのコンサートの出演経験多数
また、ダンサーとしての体作りの必要性からヨガを始め、ハワイの文化とヨガを融合させた Alohaflowを独自で考案
ハワイの価値観をもとにHoʻoponopono的なライフスタイリングや自然と調和できるサステイナブルなライフスタイルを目指している