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所用時間5min
2021.01.08
古代ハワイの食事風景
ここがポイント
古代ハワイの食事をする際の規則や、調理方法、食べ方などを詳しく学びます。
日々、人々が楽しみにしている食事の時間。旅行に出かけた際に食べる食事は、面白い発見に満ちていますね。食事の時間は、文化を色濃く反映する時間であり、異文化を知るにも優れた機会であるとも言えます。ハワイの食事に関する習慣や背景にあるものを知り、ハワイの文化をより深く、身近に感じてみましょう。まず最初に、ハワイの食事に関するルールを見てみましょう。
食事に関するカプ
古代ハワイの人々は、「カプ」と呼ばれる、現代の法律に相当する禁止事項の数々を覚え、カプを破らないように注意しながら生活していました。食事の際にも、様々なカプがあります。その代表的なものには、以下のようなものがあります。
・男女が共に食事をすることは禁止
・男女それぞれの食事は、別々のイム(地面を掘って作ったオーブン)を使って作る
→これらは、男女それぞれのマナ(霊的な力)をはっきりと区別しておくために行われました。
・女性は調理前のタロイモを触ってはいけない
→タロイモは神聖な植物とされていたためです。
・女性は、豚、バナナ(3種を除く)、ココナッツ、特定の種類の魚を食べてはいけない
→神へのお供え物として使われる食べ物のため、女性は食べてはいけないとされていました。
食事の準備
<食材>
古代ハワイの食事を、主食、タンパク源、ビタミン源の3つに分けて、それぞれの主な食材を見てみましょう。
主食―ポイ
基本のポイは、タロイモ(Kalo)を潰し、水を加えて作りますが、その他、サツマイモ(ʻUala)やパンの実(ʻUlu)も、加熱後に潰して、タロイモのポイと同様に食されていました。
(ファーマーズ・マーケットで売られているタロイモのポイ)
(タロイモの代わりに主食になるパンの実(ウル))
タンパク源―豚、犬、鶏、鴨、魚介類
豚は養殖されていましたが、神へのお供えや、多くの人々が集まる祝いの席などで供されるもので、普段の食事に登場することはありませんでした。豚に並んで、犬、鶏は、初期の移民がハワイに持ち込んだ最初の動物で、それぞれ養殖して食べられていました。鴨は自力でハワイに飛来して到達しており、それらを捕獲したり、海で採れる豊富な魚介類もタンパク源となっていました。
ビタミン源―バナナ、タロの葉(Lūʻau)、シダ、ココナッツ、葛、海藻など
主食のポイ自体がビタミン豊富な食べ物なので、ビタミンを摂取するために大量の野菜や果物を必要とはしませんでしたが、タロイモの葉は特に料理に用いられていました。
<調理方法>
古代ハワイにおける食事作りは男性の仕事で、女性の分の食事も全て男性が用意していました。食べ物を加熱する際に使われていたのが、地面を掘って作ったイムで、カプに定められているように、男女異なるイムが用意されており、料理は男女別に作られていました。
一般的なイムの大きさは、長さ1.2m~2.4m、深さ30㎝~60㎝で、まずはイムの底に多数の石を置き、薪を使って石を焼きます。石が熱せられた後、底全体に石を広げ、ティなどの葉を敷いた上に食材を並べます。食材をティの葉やバナナの葉で覆い、その上からラウハラマットやカパを広げて蓋をし、食材に火が通るまで数時間待ちます。
イムを使うほか、木の器に水と食材を入れ、焼いた石を入れて蓋をして蒸す方法、焼いた石の周りにティの葉に包んだ食材を並べ、焼く方法などが取られました。
食事の準備については、多く作って保存する、そして、保存したものを少しずつ食べていく、という方法が取られていました。例えば、主食となるポイは、タロイモを蒸し焼きにして皮をむき、時間をかけて潰していく作業が必要となりますが、オーブンとなるイムを焼いた石で加熱するのにも、タロイモに火を通すにも、数時間の時間を要します。そのため、ポイについては、加熱されたタロイモを潰しておき、空気にできるだけ触れないようにして屋内で保存しておき、発酵させます。そして食事の度に必要な分を取りだして水分を加え、食べやすいペースト状にして食しました。
使われる食器
古代ハワイの特に初期の頃は、加工が簡単なヒョウタンやココナッツが器として使われており、加工に手間がかかる木の器は、ステイタス・シンボルとして使われていた可能性があるとの説がありますが、後に、食事の際には主に木の器(ʻumeke)が使われるようになりました。中でもコウの木は食器に適しており、ポイなどを入れる大きく深いボウルの形から、平たい皿の形、人型の飾りがついた楕円形のものなど、用途によって様々な形の食器が作られ、使われていました。
(アウトリガー・ワイキキ・ビーチリゾート内の展示より。現在展示は終了しています。)
アリイ(王族など位が高い人々)が使った食器には特に、一人用の小さめのポイ用のボウルに加え、骨や食べ残しなどを入れるスクラップ・ボウル(ipu ʻaina)や、水が張られ、指を洗うことができるフィンガー・ボウル(ipu holoi lima)が用意されました。スクラップ・ボウルは特にアリイには重要なもので、アリイの食べ残しや爪、髪に至るまで、アリイの体から出る物は全て厳格に管理した上で、燃やす、埋める、海に流すなど、しっかり処分されていました。もしそういった物が敵の手に渡ってしまえば、呪いをかけられる恐れがあったためです。
食事の仕方
料理が完成し、食事の時間となりました。天気の良い日は、基本的に屋外にラウハラマットを敷き、その上に座って、男女別々に食事をします。男の子は、生まれてから11歳位までは母親と共に食事をしますが、それ以降は、父を含め男性と共に食事をすることとなり、母親と食事を共にすることはできなくなります。
(食事風景の参考に。写真は近代のものです。)
さらに、男性、女性それぞれ別の食事用の部屋が用意されており、悪天候の時を含め、その部屋で食事をすることもあります。男性が食事をする部屋、ハレムア(Hale mua)には家族神(ʻAumakua)が祀られており、一家の代表が家族神にお供えと祈りを捧げてから食事を始めました。女性が食事をする部屋はハレアイナ(Hale ʻaina)と呼ばれました。現代では、ハレアイナはレストランという意味で使われることがあります。
古代ハワイの人々は、体を清潔に保つ工夫をよくしており、一日に2度、3度と、海水で体を洗った後で淡水で流すということを習慣として行っています。食事の際は、フォークなどを使わず、全て手を使って食べることから、食べる前には手を洗うという習慣も持っていました。
アリイのように位の髙い人々は、個別に食器が用意され、お付きの人が食事を運んだり、食事を手伝ったりしますが、一般の人々は大皿に盛られたものを数人でシェアする形が取られていました。ポイも大きな器に入れられ、そこから数人が指ですくいとって食べていました。
カプの終焉
1778年と1779年、イギリス人のクック船長一行がハワイに上陸し、ハワイの人々は外国人と初めて交流する機会を持ちました。当時のハワイの人々は、客人には十分な食べ物を振る舞うという古代ハワイの慣習に従い、クック船長一行を、豪華なハワイの食事と共に丁重にもてなしました。
クック船長の上陸以降、外国人のハワイへの上陸が続く中でも、厳格にハワイの慣習や文化を守り続けていた当時のカメハメハ大王でしたが、カメハメハ大王の妃であるカアフマヌ女王は、アメリカから布教のためにハワイに定住した宣教師の影響を強く受けていました。
(カアフマヌ女王とカメハメハ2世)
大王が亡くなった後、跡を継いだカメハメハ2世と共にハワイを統治することになったカアフマヌ女王は、ハワイの西洋化を推し進めようと、古代ハワイの宗教やカプを終わらせる動きに出ました。カプでは、男女が共に食事をすることは禁止されていましたが、カアフマヌ女王はカメハメハ2世と共に食事をし、自らがカプを破ることでハワイは新しく生まれ変わるということを示し、1819年、カプ制度の終了が宣言され、食事に関する様々な禁止事項も、その年で終了しました。
カプ制度はなくなりましたが、古代ハワイの食生活は文化として現代でもしっかりと息づいています。ポイをはじめ、ラウラウやハウピアなど、ハワイの伝統料理もハワイでは気軽に食べることができるようになっています。また、ポイを指を使って食べることも、文化として残っています。ハワイの伝統料理を食べる機会があれば、その食べ方や背景にあったカプなどの習慣も想像しながら食べてみると、ハワイの文化体験をより深めることができるのではないでしょうか。
ハワイのそれぞれの伝統料理については、こちらをご覧ください。
タロイモの葉を使った料理
ラウラウ
ココナッツを使ったデザート
ハウピア
(白黒写真は、Hawaii State Archivesより。その他写真はHawaii Historic Tour LLC所有のものです。)
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ロバーツさゆりSayuri Roberts担当講師
東京生まれ。筑波大学・比較文化学類にて北米の歴史・文化を学び、英会話スクールの講師等を経て、結婚を機にハワイへ移住。Native Hawaiian Hospitality Association主催の歴史ツアー「Queen's Tour(当時)」に参加し、ツアーガイドの方に、日本語の通訳を頼まれたことから、2004年、ガイドとして登録、研修の上、日本語の歴史ツアーを始める。2006年、「Queen's Tour」の終了を機に、ツアーの継続について主催者の了承を得て、Hawaii Historic Tour LLCを発足、「ワイキキ歴史街道日本語ツアー(当時)」(その後「ワイキキ歴史街道ツアー」に改称)を開始。2007年、「ダウンタウン歴史街道ツアー」もスタート。テレビ、ラジオ、雑誌等、メディア出演多数。 『お母さんが教える子供の英語』(はまの出版)著者。
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